
― どのような子どもでしたか?
よく言えば元気な子ですが、落ち着きがなかったです(笑)。勉強しないで、サッカーばかりしていました。ポジションはフォワード。当時は今とは真逆で攻撃的な性格だったんですが、友だちは多い方でしたね。
生まれは練馬なので、近くに海があったわけではないんですが、親戚が新潟に住んでいて、夏休みには1週間くらい遊びに行き、海に連れて行ってもらいましたね。新潟の海って熱帯魚みたいな魚はあまり泳いでいないんですが、たまにカラフルな魚を見付けると興奮しました。また、祖父と出掛けてシロギスやハゼなど釣って食べたりと、子どものころから海が好きでした。当時なりたかったのはサッカー選手。でも怪我が続き、18歳のときに諦めました。しばらくは何にも興味を持てなかったんですけど、高校生のころから飼い始めた海水魚を見ながら、「ダイビングインストラクターになれば、毎日魚を眺めることができるぞ!」と志しました。
ダイビングインストラクターになるための専門学校を出て、20歳のときに和歌山県串本町へ。本当は石垣島で働きたかったんですけど雇ってもらえなくて、学生時代に研修に行ったお店から「採用枠があるから来ないか?」と誘われたんです。串本では丸4年過ごしましたが、ダイビングガイドとして働いて、魚を見れるだけで嬉しかったです。


― 水中写真を撮り始めたのはいつですか?
串本でガイドを始めてすぐですね。ガイドを始めたらすぐ写真を撮りたかったんですが、給料が安くて一眼レフカメラをカバーするハウジングが買えなかったので、入社していきなり3~4ヶ月ぶん前借りしちゃったんですよ。
カメラを買って喜んでたんですが、残った月々の給料はだいたい2~3万円くらいで、当時はまだアナログカメラだったから、フィルムを買って現像してたらお金が全くなくなってしまいました。積極的に夕飯付きの宿直勤務をしたりはしてたけど、今思うとどうやって生活してたんだろう……(笑)。
写真を撮るのは子どもの頃から好きで、父のカメラを持ち出してスナップを撮ってました。本格的にカメラを勉強したのは、自分のカメラを買ってから。忘れもしないNikonのF90です。でも、当時水中写真は趣味で、自分のダイビングショップを持つのが夢でした。
― ダイビングガイドから水中写真家に転向するきっかけは?
カメラを買って水中写真を撮るようになって1年くらいですかね。もう廃刊してしまった雑誌で水中写真の大きなコンテストがあって、知り合いに「出してみたら?」と勧められ、1点だけ出したら賞をいただいたんです。それで「俺、いけるかも!」って(笑)。それから徐々に図鑑やダイビング雑誌に「写真を貸してもらえませんか?」と依頼をいただくようになり、「写真でやっていけるんじゃないかな」と思うようになりました。今思うとものすごく微々たる金額なんですけど、嬉しくて「水中写真のプロになる!」と勘違いしちゃったんですよね(笑)。
やっぱり、潜らなきゃいけないことですよね。機材を抱えて潜るわけですから、ダイビングの技術は必須ですし、1本のタンクで潜っていられる時間は決まっているので、時間の制約があります。良い写真を撮るためにはできるだけ長い時間潜って粘りたいのですが、潜水減圧症などで命を落としてしまうリスクもあります。つねに危険と隣合わせなんです。
潜れる時間は水深によって違ってきますが、大体1時間くらいが目安です。被写体が自然のものを撮っているので、いつも良いシチュエーションとは限りません。下調べや事前準備など、できることは全部やっていくんですが、目的の魚と出会えないことなんて日常茶飯事です。いちいち落胆してると精神が持たないので、気付けば気が長くなりました。でも、目的のものが撮れなかったとしても、魚やエビ、カニ、珊瑚など、他の生き物を撮って、何かしら成果を得て上がるようにしています。そのためには柔軟な対応ができるよう視点をいくつか持っておくことが大切です。タイミングを待っているときは「これ、本当に来るのかな」「エアーがなくなってきたな」など、心配事はたくさん出てきますが、安全に陸に戻れるギリギリの時間まで粘って、時間切れになったら仕切り直すしかありません。だから、待っているときはできるだけ何も考えないですね。
実は、撮れないことよりも撮らなかったことのほうが後悔します。魚って動くのが早いものもいるので、ピントを合わせるのがすごく大変なんです。一瞬の勝負でシャッターを切らずに後悔するのが嫌なんですよ。
撮りたいものが撮れたときも、偶然良いものが撮れたときも、どちらも嬉しいです。もちろん自分のイメージ通りのものが撮れたときは、その場にいる人にすぐ見せたくなるくらい嬉しいです。ほとんどが偶然なんですけどね(笑)。


― 古見さんの写真集『WA!』はかわいらしい写真が多いですね。
かわいらしい写真が好きなんでしょうね(笑)。魚の写真といっても、いろんな撮り方があって、図鑑の写真だときっちり横を向いてヒレの特徴を見せたりします。
だけど、僕はそれよりも、魚の顔や柄の面白さ、暮らしている環境などに興味があるので、真横からはあまり撮らないんです。
水中写真を撮るときは、体を固定するために着底して撮るのが一般的です。でも、体を固定すると上から撮ることになってしまう。だから、写真集は「生き物同士のコミュニケーション」をテーマにしました。生き物のつがいは、「繁殖するために一緒に行動する」ということは簡単に説明できますが、いろんな生き物が共生しているんです。たとえば、表紙の写真は亀にコバンザメとホンソメワケベラが寄り添っているように見えますよね。自然界って「弱肉強食ですごく厳しい世界」「暗く冷たい海の中」みたいなイメージがあると思うんですけど、魚たちからすれば海の中のほうが良いに決まってるじゃないですか。あるとき「弱肉強食だけじゃなくて、近所付き合いみたいなのもあるんじゃないのか?」と感じ、構図のテーマとしてみました。
― 思い出深い写真は?
写真集『WA!』に載ってる写真はすべて思い出深いですね。生き物たちが会話してるように見えますが、すれ違いざまの様子だったりと時間にするとほんの一瞬です。写真としては両方の表情が見えたほうが面白いので、じっとそのタイミングを狙って撮影しています。
たとえば、この写真ではマンタが列になっています。「あっ、マンタが来た!」と思ったら、次から次に後ろからマンタが連なってきたんですよ。こっちの写真はジンベエザメが
プランクトンを食べるところです。これまで何度もチャレンジしていたものの、こんなに大きく口を開けている写真を撮れてなかったんですが、撮影の最終日に撮れて嬉しかったですね。ジンベエが穏やかな生き物だということはよく知られていますが、あんな大きな魚が口を開けたときはやっぱり恐怖を感じました。この写真はカエルウオ。大きさはちょうどアマガエルくらい。かわいくてすごく好きなんです。一緒に写ってるのはイバラカンザシというゴカイの仲間。すごくきれいで、ここ5年くらいずっと「カエルウオとイバラカンザシが寄り添ってくれたら良いな」と思いながら、なかなか巡り会う機会がなかったのですが、たまたまフィリピンで潜ってたら、すごくきれいなイバラカンザシがあって、近くにカエルウオも来てくれて、待っていたらポーズをとってくれたんですよ。希望的観測というか、「こうなってくれたら良いな」って思いながら待ってましたね。地味でしょ(笑)。
― 海外での撮影も多いですよね。
年間の2/3くらいは撮影に出ていて、そのうち7割くらいは海外ですが、海外のダイビングガイドたちは大体英語が話せますので、「自分はこういうものが撮りたい」としっかり伝えてコミュニケーションします。
海外って行ってみないとわからないことが多いですね。たとえば2008年に行ったツバル。民家が高床式住居みたいな感じで浸水対策をするような海抜の低い国です。行く前に仕入れた情報だと、「みんな悲壮感を抱えて生きている」と聞いていたのですが、全くそんなことなかったですね。たとえばこの写真を見ると、街の中で子どもたちが本当に楽しそうに遊んでいます。実は、ここの周りは豚小屋で、干潮のときは水がないんですけど、満潮になると水浸しになって、豚は顔だけ出してるような場所なんですよ(笑)。思い出すだけでも辛いほど臭いがキツくて、撮影するのをちょっと躊躇したのですが、「これは撮るしかない!」とカメラを構えたら、子どもが水を掛けてくるんですよ。「このやろっ!」と水を掛け返したりして、楽しかったですね。みんな人懐っこくて、悲壮感なんて微塵も漂ってなかったです。「報道はちゃんとしないといけないな」と思いました。
― 海以外の撮影もなさるんですね。
ツバルのように人や風景を撮ることもありますし、川に潜って特別天然記念物のオオサンショウウオの撮影をしたこともあります。でも、やっぱり海の魚が好きなので、海での撮影が多いですね。
日本人にとって、海は接しやすい自然だと思います。海に入らなくても、海に行って風にあたると気分が良くなりますし、波の音を聞いてるだけでも心が落ち着きます。海に行ったら優しくなる人が多いんじゃないでしょうか。つねに海と接するようになって強く感じるようになったのは、季節の変わり方。東京にいても空気の匂いや太陽の傾き方で春から夏に変わるのを敏感に感じるようになりましたね。
よく「趣味を仕事にしちゃいけない」って言いますけど、人によってはダイビングや写真って最大の趣味ですよね。だから誤解を恐れずに言うと、水中写真家という仕事は僕にとっては最高に楽しい仕事なんです。
― 古見さんにとって「伝える」とは?
「感じること」でありたいなって思うし、僕は自然と共に生きているので、実際に僕の写真を通して自然を感じてもらえると嬉しいです。地球温暖化が世界的に叫ばれていますけど、「地球を守ることが大切なんだ」と僕らが訴えるのが先じゃなくて、僕が撮ったかわいい魚やきれいな珊瑚の写真を見て、自発的に「守りたい」と思ってもらえるのが理想ですね。
自然って作り込まれた世界ではないので、ありのままをそのまま撮る。嘘をつかずに、正しいことを正確に伝えたいです。
― 今伝えたいことを色紙に書いてください。
「人と自然 人と人 心と心が つながりますように」です。自然と人は切っても切れないじゃないですか。もっと自然と触れ合ってもらいたいです。自然と触れ合うなかで、人との触れ合いもありますよね。最終的に心と心がつながれば、みんな仲良くなれるんじゃないかな。そういう願いも込めました。
独自の視点で撮影された写真は、見ているだけで微笑ましく、
「守るべきもの」として心を動かされるものであった。

古見きゅう (ふるみ・きゅう) 【水中写真家】
1978年生まれ。東京都練馬区出身。本州最南端の町、和歌山県串本町にてダイビングガイドとして活躍した後、写真家として独立。東京を拠点としながら世界中の海をフィールドに、各地の自然や文化などを精力的に撮影し、月刊『ダイバー』や週刊誌『サンデー毎日』、『ナショナルジオグラフィック』誌など、さまざまな媒体に作品を発表している。世界中を旅し、一年の3分の2は海に潜っている。かわいい海の生物や美しい海中風景、きれいな海辺の風景をはじめ、サンゴの白化現象やツバル共和国の海の環境問題など、幅広いテーマを撮影している。2010年6月には、約10年に渡って撮りためた「海の中のコミュニケーション」をテーマとした初の写真集『WA!』を発表。
公式ホームページ「Nine Photo Office」