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鈴木杏 / 女優

―――どのような子どもでしたか?
 少なくとも女の子っぽくはなかったですね(笑)。「わんぱく」という言葉が似合う子。男の子の友だちが多かったし、リカちゃん人形よりもウルトラマンやドラゴンボールが好きだった。7歳まで一人っ子だったので、外で友だちと遊ぶことが多かったんです。
 家にいるときには、適当に話を作ってウルトラマン人形で遊ぶか、一人でごっこ遊びをしていました。目の前に誰かがいるかのように話していたから、端から見たら変な独り言が多い子だったと思います。思い返せば、小さい頃から何かになりきるのが好きだったんだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――女優業を始めるきっかけは?
 両親が映画やドラマが大好きだったので、週末は一緒に映画を観に行ったり、ドラマを観たりしていました。そういう影響もあって、7~8歳くらいのときに「ドラマに出たい」と言い出したらしく、両親は「またこの子が変なことを言い出したぞ」と思いながらも、「やりたいからといって上手くいくような職業ではないけれど、上手くいかなかったとしても人生経験として良いから」と、安心できる事務所を探してくれたんです。
 デビューは1996年の「金田一少年の事件簿」だったんですけど、「自分が観ているドラマに出ている堂本剛さんやともさかりえさんが遊んでくれる!」という喜びと楽しさが大きかったですね。お芝居よりも、現場に行っていろんな人たちと話すのが楽しかった。そうやって「楽しい!」って思いながら仕事をしてたら褒めてもらえたもんだから、すっかり味をしめちゃって(笑)。自分の身近な人、親や事務所の人たちが喜んでる姿を見るのが嬉しかったんです。それは今でも変わりませんね。

 

 

―――多感な時期に仕事を始めると、悩みが多かったのでは?
 小学校のときは、仕事を始める前から私のことを知っている子が多かったから、「昨日観たよ」と言ってくれたりはしてたけど、みんな自分に対して普通。私も普通に過ごしてました。
 ただ、中学校からは他の小学校から上がってきた「芸能やってる鈴木杏」という目線の人が増えたので、「めんどくさい」って思うことが多かったかな。その頃は一番忙しい時期でもあったから、同級生たちと上手く付き合えなくなっちゃったんです。学校の外には年上の友だちがいて影響を受けていましたし、映画はソフィア・コッポラ監督や岩井俊二監督の作品が好きだったり、音楽は椎名林檎さんとかゆらゆら帝国さんとか岡村靖幸さんとか聴いてたり、小説は小学校の頃から江國香織さんとか読み耽ってましたしね。話が合わないのはもちろんだけど、女の子たちがさっきまで仲良くしていた子の悪口をすぐ言ってたりするでしょ。それが信じられなくて距離感がわからなくなっていきましたね。先生たちは良い人ばかりで好きだったんだけど、中学校という場所はあまり好きじゃなかったですね。

 

 中学がつまらなかったから、高校も「通信教育でいいかな」と思ってたんですけど、両親が「高校まではちゃんと出てほしい」ということで堀越に進学することにしました。先輩に「堀越も大変だよ。校則厳しくて」と聞いていたんですけど、クラスメイトがすごく良かったんですよ。みんな「学校を楽しむぞ!」というスタンスで、テンションも高いし、すごく信頼できるし、いまでもしょっちゅう会うくらい仲良しです。外でどんな仕事をしていようが、校内に1歩入ったら普通の女子高生に戻れるのが良かったんだと思います。戻りすぎて、キャッキャキャッキャ走り回って小学生みたいだったんですけど(笑)。それくらい自由でいさせてもらえた場所だったから、本当に高校に行って良かったと思ってます。
 「普通に生活をする」ということは、私にとって大切なことで、仕事ばっかりしていたらバランスが崩れていたかもしれないですね。普段電車に乗るし、コンビニにも行く、その辺をプラプラ歩いたりもします。みんなが思う「芸能人像」からかけ離れたタイプなので、初対面の人に「芸能人」として扱われると、「そうかぁ……」と思っちゃうんです。学校ではお芝居してるわけでも、仕事しに行ってるわけでもなく、普通の一人の人間として通っていました。今でも芸能人扱いされることに違和感を覚えることはあります。学校と仕事を両立させるのは大変だったけど、短期間でテスト勉強をしなきゃいけなかったり、短時間で台詞を覚えなきゃいけないゆえに集中力がついたのは大きな収穫でしたね。

 

―――集中法などありますか?
 テンションを上げるために、そのときの役に合った曲を聴いたりはしますけど、集中法は特にないんですよね……。台本をひたすら読んで気持ちを覚えるのが先で、言葉は読んで空で言っての繰り返しです。前の人の台詞をなんとなく覚えていると、そこにキーワードがあるので、より覚えやすくなります。
 単純にお芝居が好きなんですよね。ドラマも映画も舞台も、観るのも演じるのも台本を読むのも、好きすぎて他のことにあまり興味がないんです。絵を描くわけでも、ゴルフをするわけでもないし、行ったら行ったで楽しいけど旅にもそこまで興味がない。芝居が私の最大で唯一といえる趣味なんです。

 

―――お芝居の楽しさとは?
 普通に生きてたら、渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で泣きわめくわけにはいかないじゃないですか(笑)。できるだけ人に迷惑を掛けないように、しっかりと生きていかなきゃいけない。でも生きてると、スクランブル交差点で泣きわめきたいときだってある。実は日常のなかには、「したくてもできないこと」がたくさんあって、それを許される場所がお芝居なんです。
 傷つけたくなっても、傷つきたくなっても、やり続けていると生活していけない。
でもお芝居なら、本当に入り込んじゃうとお互い傷だらけになるけど、周りの人
に迷惑を掛けずにそれをやり合える。お芝居でいろいろ発散している気がします。

 

―――ご自身の人格に近い人と遠い人、どちらが演じやすいんでしょう?
 基本的にはどっちをやっていても楽しいです。「このキャラクター、かけ離れてるな」と思っても、妙にピタッとはまると「似てるのかな」って思ったりするし、映画を観ていて、自分と境遇も考え方も違う人に感情移入すると、「こういう面も持ってるのかな」って思います。私自身が自分の人格をわかっていないからかもしれないですけど、どれも近いし、どれも遠い感じがするんです。「発散」という意味でいうと、暗くてヒリヒリするような役のほうが発散はしやすいですね。明るくてはつらつとした、きれいな人の役をやると頑張らなきゃいけなくて、めんどくさい人の役のほうがやってる間はしんどくなっちゃうんだけど、自分自身が浄化されるというか、ちゃんと吐き出せる気がします。
 どの役のときでも不安だし、難しいと思います。悩みながらも稽古をしていると、頭が真っ白になる瞬間があって、自然に体と感情が動くようになるんです。そういうときは「その人に寄り添えたのかな」って思います。

 

 

 

 

 

 

―――映画「軽蔑」では破滅的な純愛を貫く歌舞伎町のポールダンサーという難しい役でしたが。
 「軽蔑」の真知子はいろいろ大変すぎて、あたふたしてました(笑)。監督が求めるものが、これまで芝居を続けて経験してきたものとちょっと違ったというか……。「芝居をするな」と言われて、芝居をしているうちは一向にOKが出なくて、「ちゃんとそこに存在して、向き合って立っていてくれ」って言われるんです。そこから何が生まれるのかを見たいという監督だったので、大変でした。そこに「生きる」ことを求められてたんです。自分が真知子になれたか考える余裕すらなかったですね。
 この前、久しぶりにロケ地の新宮に先行上映の舞台挨拶に行ったんですよ。撮影でも使われた駅を降りた瞬間、思い出して急に胸が苦しくなって、カズさん役の高良健吾くんと「なんか痛いよね」「なんかヤだね」と言ったり、それくらい体に染みついちゃったし、撮影中も大変だっただけに、いろんな要らないものが「すとん」と落ちて、浄化されてシンプルに戻った感じがしています。
 シンプルになったから、また考え込むし、小さいことでウジウジ悩むし、何も鎧を着けていない状態だから、「あれっ、痛いな」って気持ちになることは多いですね。

 

―――次の役も難しい役なんですか?
 次は、つかこうへいさんの追悼公演「新・幕末純情伝」で、女という設定の沖田総司の役をやるんですけど、お話自体はシンプルです。でも稽古が始まってないから自分がどうなるかはなんとも言えませんね。
 一番大事なのってその役をどれだけ愛せるかだと思います。すごい女優さんはたくさんいて、演技の上手い下手を言い出したらキリがないし、みんな素晴らしいですけど、自分のセールスポイントとして押し出せるものを考えたら、「私以上にこの役を愛せる人はいません」ってことだったんです。いま台本を読んでいて、沖田総司もすごく愛せそうだと思ってます。
 小さいときに広末涼子さんが沖田総司を演じる「幕末純情伝」を観たことがあるんですよ。なんとなくは覚えてたんですけど、改めて台本を読んでみると、「こんなストーリーだったのか!」「私こんなかっこいい台詞を言えるんだ!」とワクワクしています。
 かっこよくて、観ててシビれることをしたいですね。舞台とか観ていて「うわっ、めちゃくちゃかっこいい!」ってシビれることってあるじゃないですか。観ているこっちがビリビリしてるんだから、やってるほうはもっとビリビリしてるんだろうなって思うと、やってみたいって思います。芝居やってるときには他の芝居を観に行きたくなるし、他の芝居を観に行ってビリビリしたら芝居をやりたくなる。その繰り返し。動機はいつも単純なんです。
 劇団☆新感線は、ものすごく殺陣がかっこよくて憧れでした。でも出させてもらったときは、小刀を持って逃げたり避けたりするばかりで、主宰のいのうえひでのりさんに「私も人斬りたい」って言ったりしていました(笑)。「幕末純情伝」では、念願叶っての殺陣があるから、自主トレで殺陣の練習に行ってるんですけど、いやぁ楽しいですね、戦うの! 幼少期のわんぱくな自分にすぐ戻っちゃいます。

 

―――仕事をするうえで気をつけていることは?
 礼儀と挨拶と、なるべくみんながご機嫌でいられるように努めています。自分がご機嫌でいて、みんなも楽しい気持ちになれたら良いなって思いますね。時間が押したり、お腹が空いても、できるだけイライラしないように意識しています。実は10代の頃って結構イライラしてることが多くて、今思うとめちゃくちゃかっこ悪いし、何やってたんだろうって思うんですよ。今は「時間が押したって、大したことじゃないじゃん」って思えるようになってきました。
役者って現場では守られてる立場なので、スタッフさんともちゃんとコミュニケーションを取りたいなって思ってるんです。私もシャイだから得意なわけではないんですけど、お茶を飲む場でちょこっと話をしたり、軽口叩いたりしています。やっぱりチームなんで、チームワークの連携が取れていたほうが良いし、一緒に過ごすんならお互い好き同士でいたほうが気持ちが良いですもんね。

 

 

 

 

―――鈴木さんにとって「伝える」とは?
 役者は作家さんが書いたことを再現するのが仕事で、本当に伝えなきゃいけないことは台本に書いてあるんです。どう演じていくかだから、「伝える!」というつもりで芝居をするというより、その「役を生きてる」だけだったりします。
 ただ、熱量は必要だと思います。伝えることにその人がどれだけ大きなエネルギーを持っているか、伝えたいことに対してどれだけ愛情や情熱を注げているか、声はその人の持ってる声質や技術もあるけど、熱は誰にでも出せるもので、熱が伝われば人は感動するんです。人に何かを伝えたいときには、どれだけエネルギーを傾けるかが重要なんでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

―――今「伝えたいこと」を色紙に書いてください。
 「大切に。」です。あまりに情報も多いし、会う人も多いし、いろんなことが多すぎて、ぼやぼやしているうちに、本当に大切にしなきゃいけないものを手からこぼしてしまっている気がしているので、なにかを大切にすることや、誰かを大切にすることとか、何が大切なのかをちゃんと意識していたいですね。

 

 

 

 

 

「役を演じる」のではなく、向き合って「役を生きる」という表現を使う鈴木さんの、仕事に対する熱量が伝わる取材となりました!

鈴木杏

鈴木杏 (すずき・あん) 【女優】

1987年4月27日生まれ。東京都出身。小学生の頃より芸能活動を開始。ローソンや大塚製薬の「ポカリスエット」のCMで注目され、96年、ドラマ『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)でドラマデビュー。翌年、ドラマ『青い鳥』にも出演し注目を浴びる。映画『Returner リターナー』では、第26回日本アカデミー賞新人俳優賞と話題賞をダブル受賞し、注目を浴びる。2003年、舞台『奇跡の人』でヘレンケラー役を演じて以来、舞台女優としても活躍。09年には同舞台でアニー・サリヴァン役に挑戦し、その演技力を高く評価された。 蜷川幸雄演出作品にも数多く起用され、2011年公開映画『軽蔑』では、女優としての新境地を開拓した。

 

鈴木杏オフィシャルブログ「杏のよりみちカフェ

 

<公演スケジュール>
【舞台】パルコ劇場 つかこうへい追悼公演「新・幕末純情伝」

 

「東京公演」
■会場
PARCO劇場
■日程
2011年9月13日(火)~2011年9月25日(日)

 

「大阪公演」
■会場
シアター・ドラマシティ
■日程
2011年10月1日(土)~2011年10月2日(日)

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