表現フィールドリサーチ

子どもたちの“やりたい放題”を実現!えのぐまみれで楽しむアートイベント「Play Art BnA」

子どもたちの“やりたい放題”を実現!えのぐまみれで楽しむアートイベント「Play Art BnA」

子どもたちには、思いっきりお絵描きを楽しんでもらいたい。けれども、のびのびと自由に描いていい場所など、そうそうないのが現実です。そんな親目線のアイデアから生まれたアートイベントが「Play Art BnA」。日本橋のアートホテル「BnA_WALL」の地下アトリエで繰り広げられる、えのぐまみれの楽しげな様子がInstagramを中心に話題となり、今ではウェイティングリストができるほどの人気ぶりとなっています。このイベントに欠かせないのが、ぺんてるの「ゆびえのぐ」。一体どんな風に使われているのでしょうか?今回は、ひとりのママの発案から生まれた話題のイベントに潜入してみました。

01「子どもに体験させてあげたい」がイベントの出発点。

家具や壁に落書きをされた経験は、子どものいるご家庭であれば少なからずあるはず。画用紙からはみだして自由気ままに描いてみたいという欲求は、ある意味子どもたちの本能なのかもしれません。

であるならば、床や壁に思いっきり落書きができる場があるといいのでは––––。
「Play Art BnA」の発起人であり、子を持つ親でもある柴田菜々子さんが、そんな何気ない気持ちをFacebookでつぶやいたところ、知り合いから「BnA_WALL」の地下アトリエを使って良いですよ」との返答が。その知り合いこそが、国内4カ所でアートホテルを展開するBnA株式会社の代表・田澤悠さんでした。

Photo by Tomooki Kengaku

“泊まれるアート”をテーマに、海外からのツーリストをターゲットとしたBnA HOTELは、宿泊料金の一部が参加アーティストに還元されるパトロン制度を採用しています。若手アーティストが自身の作品として実績をつくれる場所を提供するというのがBnA_WALLのコンセプト。壁画をきっかけに地域の方や企業とアーティストがつながっていく場所と田澤さんが話すように、国内4軒目となる日本橋のBnA_WALLは、1階のラウンジから地下アトリエの制作風景を眺めることができる6m×6mの巨大壁画がアイコンとなっています。

Photo by Tomooki Kengaku

大人が泊まりながらゆったりとアートを楽しむホテルと、子ども向けイベント。両者は相反するようにも思えますが、イベントの開催を二つ返事で快諾した理由を田澤さんに伺ってみると。

BnA株式会社の代表・田澤悠さん。

「世界中から泊まりに来るアート好きな人と、ローカルでおもしろいことやっている人をつなげていこうというのがBnA HOTELの考え方で、ホテル自体がプロジェクトベースのコミュニティビルディングなんです。まるで学園祭のようにさまざまな人が一緒になって一つのものを作りあげるなかで、個人が自分の居場所や役割を見出し、一方でコミュニティもどんどん広がっていく。そんな流れを作れたらという想いがあって、その対象を子どもまで広げてやってみるのもおもしろいんじゃないかなと思ったんです」

“アートはコミュニティの表示”だと話す田澤さん。コミュニティに目を向け続けているからこそ、SNSでの知人の何気ないつぶやきを拾いあげることができたのかもしれません。

そして初開催に向けてリサーチを進めてみたところ、壁画のように広々としたキャンバスに親子で自由にフィンガーペイントを楽しむというイベントはこれまでに実施例がなかったことに気づきます。そのためすべての準備を手探りで行い、初回は“子どもが誤って口にしても安全”という基準を設定して複数のえのぐを用意し、実験的に開催したそうです。

そんな第一回の開催後、田澤さんたちはぺんてるに一通のメールを送りました。「子どもたちを対象にぺんてるの『ゆびえのぐ』を使用したイベントを開催しているのですが、ご協力いただけませんか?」と。

「ゆびえのぐ」は、手や指で直接えのぐに触れ、ぽてっとした感触や色の混ざり具合を楽しむ“あそび”のためのえのぐ。直接手に触れるものだからこそ、安全性の高い原材料にこだわっていて、食物アレルギー28品目を含有しないアレルギー対応や、化粧品と同じパッチテストを実施しています。

そんなえのぐの安全性や発色の良さなどはもちろんのこと、初回のイベントを通して、フィンガーペイントでは “えのぐの落としやすさ”が求められることに気づいたスタッフ。その気づきを経て、手を洗って簡単に落とせる「ゆびえのぐ」を本採用することに決定したというのです。
おもしろいことやアートと企業をつなげるといったホテルのコンセプトが体現された今回のできごと。こうしてPlay Art BnAとぺんてるがつながることとなったのです。

手や指で直接えのぐに触れ、その感触や色の混ざり具合を楽しむことを目的とした「ゆびえのぐ」。

02五感に働きかける仕掛けが、非日常へと誘う。

2023年4月、私たちは実際にPlay Art BnAを体感すべくお邪魔させていただくことに。以前は呉服商社のオフィスビルだったという日本橋の重厚感ある建物のホテルへと向かいました。

日本橋のオフィス街の一角にあるBnA_WALLのエントランス。

地下のアトリエへと続く階段を降りて行くと、初めに衝撃を受けたのはドンドコドンドコと鳴る賑やかな音の洪水。非日常感あふれる空間に迷い込んだようで、親御さんは笑顔を浮かべながらもどことなく緊張している様子。一方、子どもたちはこれから始まる“何か”に、ワクワクしているようでした。

「これまでは知り合い経由で告知するくらいだったんですけれど、それでもすぐに満席になって。今回も2日間で200人という枠が一瞬にして埋まってしまったんですよね」

えのぐまみれになるという見た目のインパクトもあってかSNSでも拡散し、回を重ねるごとに参加者が増えているそうです。当日ご参加のみなさんにイベントを知ったきっかけや参加理由について聞いてみると、「子どもと一緒にえのぐを使うことはあるものの、流石にここまでのことは家ではできないから」「子どもと一緒に行けるイベントをインスタで探していたらおもしろそうだなって」などなど。子どもと一緒に参加できるイベントを日々探し回るなかで、Play Art BnAに辿り着いたのだそうです。

「毎回同じことをやっていてもつまらないので、リピーターさんも楽しめる工夫を取り入れるようにしています」

そう話すように今回は新しい試みとして、フィンガーペイントの前のウォーミングアップとなるクッキーづくりをプログラムに追加。参加者の前にはカラフルな5色のクッキー生地が準備されており、まずは親子で粘土遊びのように形づくっていきます。

イチゴやカボチャといった天然色素を使用した「coloridoh」のクッキー生地。えのぐと同様に、安全性を第一に採用した。

「みなさんがペイントを楽しんでいる間にクッキーをどんどん焼いていきます!そうするといい香りが漂ってきます!音に匂いに触感と、まさに五感で楽しむイベントなんですよ!」

スタッフは大声を張り上げて説明します。その理由は、会場に響きわたる即興の生演奏。ミュージシャンが会場の雰囲気を汲み取りつつ和太鼓や篠笛などをリズミカルに奏でることで、この場でしか味わえない不思議な一体感を生み出していました。

03大人も子どもも、ルール無用で楽しむ時間。

そして気がつけば、どこからともなくゆびえのぐが登場し、紙皿に絞り出したり筆を使ったりと“お上品”に描き始める姿が。その傍らBnA_WALLのシンボルである6m×6mの壁には、アーティストでもあるスタッフが巨大なネズミの絵を描いてみたり、すでにえのぐまみれになったスタッフが一緒に遊んだりと、子どもたちは日常では経験することのない自由なえのぐの使い方に触れていきます。

「最初は服が汚れると子どもたちは『汚れちゃった……』みたいな顔をするんですよね。でも、どこのタイミングからか恐る恐るやっていた子どもたちが『好きにやっていいんだ!』と気づいて、“はちゃめちゃモード”に切り替わる瞬間があるんですよね」

確かに開始から15分ほど経った頃でしょうか。会場の熱量が増した瞬間があり、白い紙が敷き詰められたアトリエは、お上品な落書きから、内から溢れ出すような大胆なえのぐ遊びに切り替わっています。

「現代社会ってすごく制約が多いじゃないですか。だから一回そういうところを取っ払うというか。言葉にするのは難しいですけれど、その瞬間こそが子どもたちにとっていい経験になるんだろうなと思いますね」

ゆびえのぐを両手にいっぱいつけた子どもがイタズラな笑顔でお母さんにハグをしたり、えのぐまみれになって大笑いをしているお父さんがいたり、またいつもとは違う両親の姿にはしゃぐ子どもたちがいたり…。参加しているすべての人がとても楽しそうに笑っているのが印象的でした。

「子どもたちだけでなく、思いがけず“描くこと”に没頭してしまう親御さんも毎回数名はいらっしゃるんです。大人も普段の生活では色々と制約を受けているじゃないですか。やりたいことを自由にやるっていうのが足りていない人も多いと思うので、今後は大人バージョンのPlay Art BnAも開催してみたいなと思っています」

大人も童心にかえって描き、子ども以上に楽しんでしまう。そんなPlay Art BnAは単なる子ども向けのイベントではなく、日常のルールからちょっとはみだして大人と子どもが“共に遊ぶ”コミュニケーションの場でもあるようです。

04画材にできることは、まだまだある。

えのぐのぽってりとした感触をダイレクトに楽しめる製品として発売されたぺんてるのゆびえのぐ。マヨネーズ型のチューブからニューっとえのぐを直接手に出し、指で伸ばしてみたり、手でペタペタとスタンプを押してみたり。その使い方は、使い手次第でどこまでも広がっていきます。Play Art BnAで頭のてっぺんから足の先まで全身を動かしながら、自由に描くことを楽しむ親子の姿は、ゆびえのぐによって広がる表現の可能性を表しているのかもしれません。

空っぽになったゆびえのぐのチューブを、これでもかと絞り出すなど、終演が近づく中でも子どもたちはまだまだ遊び足りない様子でした。

そんな姿を後に、スタッフのみなさんにイベントの内容やホテルのコンセプトについてゆっくりとお話を伺うべく1階ロビーへ上がると、あまりの静けさに一瞬にして現実に引き戻されることに。

「いやぁ、めちゃくちゃカオスでしたね」

そんな言葉が最初に漏れ出るなかにも、みんなどこかやり切ったような清々しさが感じられました。

会場となったBnA_WALL 含め、BnA HOTELのターゲットはなぜインバウンドなのか?そんな疑問を最後にぶつけてみると、その理由はアートへの関心の高さや市場の成熟度にあるといいます。

「うちの宿泊客は欧米のツーリストが9割を占めるのですが、多くはアーティストが手がけた部屋に泊まりたいという気持ちはもちろん、それ以上に『ここに行けば、おもしろいコミュニティに出会えるんじゃないか』というのを期待しているんです」

事実、取材当日も賑やかな音につられて宿泊客の方々がイベントを覗きに来るなど、海外の方ほどアートやコミュニティへの関心が高いことが伺えました。でも、えのぐまみれになっている親子の姿を目の当たりにすると、日本人がアートに関心が薄いとは決して思えません。

イベント運営を担当するフロントマネージャーの山口陽子さん。

「Play Art BnAに参加した次の日は、子どもたちがレベルアップしているというか、一歩先に成長しているというお話をよく聞きます。日常の中でも自分で遊びを工夫しはじめたりしているようですよ」

そう話すスタッフの面々は、Play Art BnAでの体験が子どもたちの中にある“アーティストスイッチ”を押すきっかけになっていると感じているようです。自由に描く楽しさを子どもたちが体験していく。そんな子どもたちがもっともっとたくさん増えていくことによって、日本のアートに対する認識や考え方、向き合い方も変わっていくのかもしれません。

枠にとらわれることなく、全身を使って心のままに表現する。そんな、ある意味“原始的”とも呼べる表現行動は、ヒトが本来求めているものなのでは––––。
画材を提供する側として、新たな発見に満ちあふれた時間でした。

BnA_WALL

「泊まれるアート」をテーマに、旅行者と日本のアーティストが交流できる実験的なプロジェクトとして2021年にオープン。ホテルだけではなく、制作・展示スペース、巨大壁画、カフェ・バー・ラウンジを併設し、「Play」「Work」「Life」「Creation」と幅広い活動を目的としたオルタナティブホテルとして知られる。

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