関東

2015年1月-3月

埼玉県川口市立前川小学校

2015年、開校して56年目になる前川小学校では、一部の校舎が老朽化のため、取り壊されることとなりました。前川小学校は、学校と保護者、地域が一体となって児童を育んでいくことを目指した、地域との繋がりがとても深い学校です。長年、図工を研究されていた校長先生から、お別れする校舎との思い出づくりの為、ご応募を頂きました。

01校舎の思い出ギャラリー

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02先生インタビュー

川口市立前川小学校(左から)菊地教頭先生、矢作校長先生、小濱先生

校舎とのお別れ集会を行うことになったきっかけについて教えて下さい。

矢作校長先生長年、図工を研究していたので、常に、子どもたちがのびのびと表現できるような、自由に思い切り絵を描ける環境はどこかにないか、と考えていました。 そんな時に、本校を建て替えることととなり、この機会をうまく利用して、子どもたち自身で何かをできないか、いい企画はないかと探していたところに、このプロジェクトを新聞記事から見つけました。

壁画のテーマはどのようにして決められたのですか?

小濱先生先生方での話し合いでは、何を描くのかテーマがなかなか決まりませんでした。そこで、クラスごとにどんなものが描きたいか?を話し合いました。そこから、子どもたちから出てきた意見を集約して、イメージをまとめていきました。

矢作校長先生今の図工は、まずイメージを決め、描きながらどんどん発展させて形にしていくのです。大人の感覚だと、何を描くかを先に決めて取り掛かることが多いのですが、今はそういった教育ではありません。何かを始めたら、そこにどんどん付け足していく、発想を大事にする教育です。

小濱先生子どもたちの中で一番多かったイメージは「笑顔」でした。笑顔というイメージから、明るい雰囲気であたたかい色が多く、描き始めたらぐんぐん伸びやかに進んでいきました。

菊地教頭先生笑顔というイメージだからといって、単純に笑っている顔を描くのではなくて、色とりどりの丸の形のみで表すなど、子どもたち自身の発想で笑顔だと思えば、それが「笑顔」なのです。

子どもたちが絵を描いていく過程で何か印象に残っているエピソードはありますか?

小濱先生当初、2年生、5年生はベランダの壁に絵を描くことを考えてはいなかったのですが、1年生が素敵な木のツルを描いていたので、それを見て、「じゃあ繋げましょう!」となり、2階は2年生、3階は5年生が絵を繋げていきました。 1年生からスタートしたツルがどんどん伸びて、3階の大時計の周りに大きな花を咲かせていました。まさに発想が広がっていき、3学年で1つの絵を作り上げました。また、廊下やトイレ、流し、ドアなど描く場所を分担していたのですが、こちらが思っていた以上に描くところが広がっていき、「こんなところまで描いたの!?」と驚かされました。子どもたちの描くスピードが速く、広がりも大きく、とても楽しんで描いていました。また、1年生は絵を描いた後に「校舎はきっとくすぐったかったよ」「喜んでるよ」と言っていました。自分たちが、筆で掌に絵の具を付けたりしたので、自分がしたことを校舎もきっと感じていると思ったのでしょう。

学校の壁という本来描いてはいけない場所に、初めて子どもたちが描いていくときはどのような反応でしたか?

菊地教頭先生子どもたちの一番最初の反応は「本当に描いていいの?」といったところから入ります。今まで、こういった場所に描いたら怒られるというイメージがあり、それを破って描くのですから。 でも、描き始めると楽しくてどんどん止まらなくなり、みんなとても夢中になっていて、先生方が終わりの合図を出せない雰囲気になっていました。

今回、校舎のお気に入りの場所フォトコンテストも開催されましたが、その時のエピソードはありますか?

小濱先生クラスでグループごとに校舎内の写真を撮りに行く時間を設けました。あるグループでは、メンバーにポプラン発案者の児童がいたため、まわりのみんなが本人に「ほら、ポプランの前で一緒に撮ろうよ!」と勧めて写真を撮っていました。教室に戻ってきてすぐ「先生、ポプランの前で○○(発案者の子)撮ってきたから~!」と嬉しそうに報告してくれました。

菊地教頭先生本格的な一眼レフカメラを使うのがとても嬉しかったようです。5年生は、スタジオにて収録番組を作る映像学習があります。中には、そこでフォトグラファーの体験をした児童もいるので、その学習の影響がとても大きかったと思います。その経験が活きて、一眼レフカメラを持って写真を撮るというかっこよさを感じることができたのではないでしょうか。

子どもたちが撮影した写真や、撮影している様子をご覧になっていかがでしたか?

小濱先生教室で授業をしているフリをして撮影している児童がいたり、壊されてしまう給食室の前で撮影している児童もいました。全体的にみんなアクティブに写真撮影を行っていたと思います。ジャングルジムに登って写真を撮っている児童を、さらに別の児童が下のアングルから撮っている写真を見た時は、どこからその発想が生まれたのだろうと感心しました。3年生は描く児童と撮影する児童に分かれており、友達同士でかなり近くまで寄っているので、良い表情が撮れていました。

菊地教頭先生撮られる側も、大人ではなく子どもが撮っているから、あまりカメラを意識しないのかもしれないですね。自然な、真剣な表情がそのまま撮れていました。

保護者の皆さんや地域の方々の反応はいかがでしたか?

菊地教頭先生地域の皆さんも散歩の途中で足を止めて校舎を見ていたり、安全ボランティアの皆さんも最初に見た時はとても驚いていました。

矢作校長先生地域の皆さんから描きたいというお声も多く、学校公開日に保護者の皆さんや地域の方々に描いて頂こうと日を設けていたのですが、残念ながら雨で中止となってしまいました。開催できていれば、おそらく多くの方に足を運んでいただけたのではないかと思います。まわりからは「校長先生、子どもたち楽しんでいるね。面白そうなことをやっているね。」と評判はとても良かったです。

今後、「校舎の思い出プロジェクト」を多くの小学校にて展開をしていきたいと考えております。 このプロジェクトに今後期待することや、メッセージがございましたらお聞かせください。

菊地教頭先生普段はできないことができる、ということ。子どもたちの思い出に残る、素晴らしい企画だったと思います。

矢作校長先生前川小学校にとって、この企画はちょうど今しかできない、偶然めぐり合えたベストなタイミングだったのだと思います。子どもたちも図工を研究していたので、色々なことが重なってのめぐり合わせだったのかな、と。 壁は汚してはいけない、絵なんて描いてはいけないという、そう教わってきた場所に描くということは、子どもたちにとって衝撃的だったと思います。きれいに表現すれば、そこが素敵な空間になるということを学べました。概念を打ち砕いていく、始めの一歩となったのではないかと思います。子どもたちには「昔、小学生の頃、新しい校舎ができたときには、こんなことをしたよな」と語り継いでいってほしいと思います。古い校舎はすべて写真で記録に残しており、壊されても、こうゆう状態であったのだと後世に残していきたいと思っています。また、1~6年生すべての子どもたちが携われるということが良いですね。どこかの学年や代表の子だけがやるのではなくて、全員で取り組むということが良いですし、楽しいと思います。校舎への思いを、文字ではなく絵で表現するということも良いと思います。

小濱先生校舎とのお別れ会を、セレモニーだけにしないで、そこまでの過程として、子どもたちが自分たち自身で校舎に絵を描き、色んな場面を写真に撮って、それからお別れ会を行うのとでは子どもたちの校舎への思いが全く違ってきます。絵で表現することによって子どもたちの校舎への思いがとても強まったと思います。「お別れするのは寂しいけれど、今までありがとう」の気持ちが、お別れ集会を見ていても感想発表や歌に現れていました。この企画に参加できて本当に良かったと思っています。