関東

2016年6月-7月

東京都多摩市立多摩第二小学校

多摩第二小学校は、明治25年に開校しました。多摩の地勢・歴史を継承し、緑と光に包まれた小学校です。この度、建て替えによって、校舎への思いを形に子どもたちの溢れる笑顔と歓声で創作活動を行うことができました。豊かな自然や様々な人との関わりの中で、一人一人が輝き、笑顔と明るい声が溢れる学校に生まれ変わります。

01校舎の思い出ギャラリー

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02先生インタビュー

東京都多摩市立多摩第二小学校(左から)佐島校長先生、佐々木先生

小学校の歴史についてお聞かせください。

佐島校長先生前身の学校を含めると100年以上の歴史をもち、親・子・孫の三代でこの学校に通っているご家庭もあり、長く地域の方々に愛され続けています。昭和38年の開校時には、一部木造校舎があり、現在の校舎の形となったのは、昭和46年のことでした。開校以来50年以上の長きにわたり何千人もの子どもたちの声を聞き続けてきた現校舎とのお別れの時に校長であるもの何かの縁とありがたく思っています。

「校舎の思い出プロジェクト」を行うことになったきっかけについてお聞かせください。

佐島校長先生私はいつも校長室を開放しており、子どもたちが自由に校長室に遊びに来ているのですが、当時5年生の児童が校長室を訪れ「校舎の思い出プロジェクト」の話をしてくれました。その話を教職員にしたところ、校舎の最後を楽しい取り組みの中で共に過ごそうという温かい雰囲気が広がり、この話が進んでいきました。以前から、地域との連携を大切にしてきた経緯もあり、旧校舎の解体、新校舎への建設・引越しを地域の方や卒業生、PTCAの皆さんと共に迎えたいという想いのもと、「さよなら校舎計画」が策定され、その中心プロジェクトとして「校舎の思い出プロジェクト」を行わせていただくことができました。

「校舎の思い出プロジェクト」のサポートプログラムはいかがでしたか?

佐島校長先生地域の方々も巻き込んだ取り組みになりましたが、豊富な画材の提供により、皆さんが十分に壁に絵を描くことができました。また出来上がった壁画の画像を大判ポスターにして、完成した新校舎で初めて行われる展覧会に掲示しました。地域の方々や保護者、卒業生は新しい校舎が自分たちの思い出を引き継ぐ学び舎であると感じてくれたことと思います。

佐々木先生プロジェクト全体を通して、きめ細かなサポートをいただきました。丁寧な説明、わかりやすい計画、豊富な画材等、企業の方々のお仕事に接し、普段異業種の方と仕事をすることの少ない教員にとってはたくさんの驚きと発見を得る機会となりました。 プロジェクト当初より、「学校が中心となり、そのお手伝いをさせていただく」というご説明を頂きました。その言葉通り、こちらの希望を最大限聞いていただき、プロジェクトを成功に導いてくださいました。 教職員も子どもたちも地域の方々も、“思いっきり校舎に絵を描く”という行為を通して、思い出を残すことができたと考えています。

特に印象に残っているエピソードなどあれば教えてください。

佐島校長先生7月のPTCA主催の「校舎お別れイベント」には、たくさんの卒業生や地域の方々も来て、渡り廊下などにたくさんの感謝のメッセージを書いてくれました。 「今までありがとう!」「楽しかったよ!」「二小大好き!」「53年間お疲れ様!」「6年間のこと忘れません!」「みんな にこにこ 二小のなかま!」など学校への感謝と愛が詰まったメッセージが溢れ、この校舎で学んだたくさんの子どもたちが二小は笑顔一杯で楽しかったという思いをもって訪れてくれたのだと思うと涙が止まりませんでした。

佐々木先生ある女の子が、教室の前の壁にウサギと亀とにわとりなどの絵を描いていました。その横にはこれまで学校で飼育していた生き物達へのメッセージが書かれています。それまで自分たちが関わり、今はいない生き物たちの思い出も一緒に新校舎に移ろうとしているのかな、と思いました。 PTCA主催の「校舎お別れイベント」では、イベント終了後も、部活動で参加できなかった卒業生が廊下に校舎への感謝の言葉を描いている姿が印象的でした。やってよかったと心から思えた一コマでした。

壁画のテーマはどのようにして決められたのですか?

佐々木先生メインテーマの「ありがとう二小の校舎、そして未来へ」は今年度の展覧会との兼ね合いで教員から子どもたちの代表である代表委員会に提案をしました。それを受け、子どもたちが大きな場面(宇宙、空、野原、海、私たちの町、学校生活、行事等)を決め、話し合いで各学年に割り振りました。各学年では子どもたちの話し合いを中心に具体的なテーマが決まっていきました。どのテーマでの取り組みでも「ありがとう」という感謝の言葉がありました。

学校の壁という本来描いてはいけない場所に、初めて子どもたちが描いていくときはどのような反応でしたか?

佐々木先生壁に絵を描けるという機会を純粋に楽しんでいました。しかし大人の想像以上に子どもたちは自然に壁に描くことに取り組んでいました。特にはしゃぐわけでもなく、落ち着いてお別れする校舎の壁に向き合い、コツコツと自分のイメージを表現していました。しかし表情は明るく、特別な体験を大いに自分たちのものとして受け入れ、よりよい作品を作ろうとする姿がみられました。休み時間や放課後を使って制作する学年が多くありましたが、仲間と話し合ったり、協力したりしながら製作する姿が校舎のあちこちで見られました。

子どもたちが撮影した写真や、撮影している様子をご覧になっていかがでしたか?

佐々木先生子どもの写真を子どもが撮る、という場面の中で、絵を製作する児童の本気さと比例して、写真を撮る児童もファインダーに楽しみながらも本気で臨んでいたと思います。その成果が作品として写真に表れているのではないでしょうか。事前のカメラ教室で丁寧にプロのカメラマンの方にご指導を頂くことで、校内にミニカメラマンがたくさん生まれました。絵を描く子と写真を撮る子とがあいまって、写真がコラボレーション作品になりました。

保護者や卒業生、地域住民の皆さんの反応はいかがでしたか?

佐々木先生PTCAの「校舎お別れイベント」ではたくさんの方が参加してくださり、みんなで校舎とのお別れの時間を過ごしました。校舎壁面には「娘3人がこの校舎で学びました。ありがとう」「この校舎で学んだ6年間があるから今の自分がある」「この学校が大好きでした」等のメッセージが残されており、地域の方々も校舎に感謝の想いを表す良い機会となりました。

今後、「校舎の思い出プロジェクト」を多くの小学校にて展開をしていきたいと考えております。 このプロジェクトに今後期待することや、メッセージがございましたらお聞かせください。

佐島校長先生現在、新校舎での生活を始めていますが、前の校舎に感謝のメッセージを残し、きちんとお別れをしたことが児童の心の安定につながっているということを実感しています。 校舎に記した絵やメッセージは、校舎が取り壊されれば消えていくものですが、懐かしい友だちと過ごした日々の出来事や、校舎取り壊しの時にメッセージを残したことはずっとその子の心に残っていくことと思います。 改めて子どもの心の育ちにとってもいい取り組みであったと思うので、全国にこの取り組みが広がっていくことを期待しています。

佐々木先生校内でこのプロジェクトについて検討している際、校舎への感謝の気持ちを表すのに絵を描くという行為で本当に感謝の思いが表せるだろうか、という議論がありました。大人はお別れ、の思いで参加できるだろうが子どもたちはどうだろうか、と。やってみて、子どもたちもしっかりとお別れができたのではないかと考えています。子どもたちが学ぶ新校舎の真横で、旧校舎が取り壊されていくことに心への影響の心配もありましたが、子どもたちは比較的落ち着いていました。おそらく、「校舎の思い出プロジェクト」できちんと校舎とお別れすることができたからではないでしょうか。 校舎の取り壊しが決まってから、現PTCAの会長と校舎ときちんとお別れをすることの大切さについて話し合いました。形あるものはいつかなくなります。もしそれがわかっているならば、感謝の思いを表現すること、きちんとお別れすること、は子どもたちの心の成長を促す大切な機会であると考えます。今回、私たちが感じた想いを全国の多くの子どもたちが「校舎の思い出プロジェクト」を通して経験されることを期待します。