はみだし24hリレー

端材に価値を見出した“持ち歩くアート”。 デザイナー/名越敬真さん

端材に価値を見出した“持ち歩くアート”。 デザイナー/名越敬真さん

「24時間ではみだすこと」をテーマに、表現に携わる方々にぺんてる製品を使って作品を仕上げていただく実験的なこの企画。作品を仕上げた表現者の方は、友人・仲間・知り合いなどなど、別の表現者の方にバトンを渡していただきます。

前回登場していただいた陶芸家の北郷江さんが次のランナーに指名したのは、大学時代の同級生でもあるデザイナーの名越敬真さん。「バッグデザイナーとしての経験から、きっと革に描くのでは…」と、北郷さんはバトン代わりに「ぺんてる筆 顔料インキ」を名越さんに託しました。

作家ではなくクライアントありきのクリエイターだからこそ「自由に表現してください」と依頼されることは少ないという名越さん。24時間の制約の中から、果たして今回はどんなはみだしや気づきが生まれるのでしょうか?
まずは、恒例の画材選びからスタートです!

名越敬真 Takamasa Nakoshi

東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。バッグデザイナー、webデザイナー、スポーツバイクデザイナー兼マーチャンダイザーを経たのち独立。現在はGOODMONDAYSの代表として、グラフィック、イラスト、エディトリアルなどを中心に活動。「考え、作り、伝える」楽しさを広げていきたいと、子ども向けワークショップも定期的に開催している。

01#01:画材選び

テーマを軸に、画材からイマジネーションを広げる

北郷さんとは、家族ぐるみの付き合いだと話す名越さん。10年来の友人だからこそ今回の依頼を断れなかったのか…と思いきや、引き受けていただいた理由は「依頼者がぺんてるだったから」と嬉しいお言葉が。
「子どもの頃に絵画教室に通っていたんですが、そこで最初に使った画材が『ぺんてるくれよん』なんです。夢中で描いていて時々ポキッと折れちゃった記憶とか、巻かれている紙の手触りとかは、絶対に僕だけじゃなく、みんなが持っているイメージだろうなと」

ぺんてる製品があったからこそアートの世界に興味を持った。そう言い切る名越さんが画材選びで最初に手に取ったのは「ミルキーブラッシュ」。「ぺんてるの筆ペンの穂先って強いですよね」と筆を滑らせていくと、アクリルガッシュでベタ塗りしたような仕上がりに驚きの表情を見せます。

続いて手にした「マットホップ」では、「外箱に日本語を載せないっていう発想を、どうやってプレゼンで通したんだろう」とデザイナーらしい着眼点も。
持参した帆布や革素材と画材との相性や乾き具合を慎重に確かめつつ「どうすれば面白くなるかなぁ…」と一言。イメージがぐるぐると頭の中を駆け巡っているようです。

「今回はなんとなく『キラキラ、ピカピカ』をテーマにしようと思っているので、テーマを元に画材を選んでいきたいと思っていて」と、テーマありきで画材を選ぶスタイルは本企画初!お題を決めてから企画をスタートさせるのは、ある意味デザイナーらしさの表れなのかもしれません。

そんな「キラキラ、ピカピカ」のイメージから名越さんが選び抜いた画材はこちらの6種類!ここから総制作時間24時間で、作品制作に取り組んでもらいます。

名越さんの選んだ画材・道具はこちら

デュアルメタリックブラッシュ

ミルキーブラッシュ

ぺんてる筆 顔料インキ(北郷さんからの推薦画材)

マットホップ

アクリルガッシュ

ファブリックファン 布描きえのぐ

02#02:制作・作品探求

価値のないものに、「キラキラ、ピカピカ」を

「どうしよう、どうしようと、常に頭の中がぐるぐるしていました」
そう話す名越さんのご自宅兼アトリエへ伺うと、そこにあったのは白い布地に混沌としたペイントが施された4個のバッグ。

「キラキラ、ピカピカ」がテーマとは伺っていましたが、なぜそのテーマを選んだのでしょう?

「文具って身近にある日常的なものですよね。その反対にある高級で特別なものを考えたときに、宝石が思い浮かんだんです。けれども、宝石よりもキラキラ、ピカピカしていて、誰もが価値があると思うものってなんだろう…と突き詰めたら、星や宇宙なんじゃないかなと。そういう絶対的なものを、身近な文具で表現しようと思ったんです」
最初に感じた混沌とした色合いは、宇宙をイメージしているからなのか…と作品をよく見ると、北郷さんを含め私たちが思い描いていた革の素材ではありません。

「そこは裏切らないといけないですからね」と、いたずらっ子のように笑う名越さんがバッグの素材に選んだものは、なんと油絵などで使用するキャンバス(画布)の端材。そこに着目した理由にも、クリエイターとしての意気込みがありました。

「会社員の時に心を痛めていたのが大量生産です。世の中に求められるものを形にして生み出す仕事を続けていましたが、自分は絶対に廃棄されるものを作っていないと言い切れるかと言われたら…。自分たちが作るものがゴミになってはいけないという考えが、これからの僕らクリエイターには絶対にないといけないんです。だからあえて廃棄されるものを使って作品を作ろうと」

安く気軽に買える文具を使い、捨てるしかなかったキャンバスの切れ端に宝石以上の価値を見出すことが、今回の一つめの「はみだし」。キラキラ、ピカピカとした高価なものやブランド品を当たり前に良しとする、現代の資本主義へのアンチテーゼでもあり、新たな価値を自分たちの手で作りだしてほしいという次世代を担う子どもたちに向けてワークショップを開催する、名越さんらしい未来に目を向けたテーマです。

03#03:画材探求

進化し続ける文具は、画材として大きく成立する

「今回は二つのはみだしがあるんです」と名越さん。一つめは、価値観のはみだし。そして二つめは、画材的にはみ出ることだそうです。

「文具って勉強の合間とかに気が散って落書きをしたりする、ある種えのぐよりもハードルの低い表現道具なんですよね。それなのに、これだけ表現の可能性があるっていうのを改めて感じたんです。特にキラキラとしたデュアルメタリックブラッシュの描線は、文具で描ける表現ではないというか、他では見たことがない」

表現のベースとなるのは、「ファブリックファン 布描きえのぐ」と「アクリルガッシュ」を筆ではなく、スキージーと呼ばれるヘラで流れるようにひいたもの。力加減、色の混ぜ方、スピードとすべてが一発勝負のため、まずは紙や布でテストをしたそうですが、そこでの思わぬ発見が作品に奥行きを持たせることに…!

「アクリルガッシュは乾くとマットになるんですが、布描きえのぐは乾くと透明度のある光沢感が出て、何ミクロンの差ではあるものの、重なると手前と奥に層ができるんです。光が当たると反射の違いが出るので、すごく面白いなと」

その上から「デュアルメタリックブラッシュ」のキラキラとした滲みや、「マットホップ」の元気な色合いを思いのままに差していくことで、ビッグバンの瞬間、ガスが漂うモヤモヤ感、チリが舞う宇宙誕生の雰囲気を表現。なめらかに輝く天の川も潜んでいます。

「…で、その下に描いているものが、北郷さんからバトンを渡された筆ペンの文字。正直めっちゃくちゃ苦労しましたよ(笑)」
黒は混じると他の色を濁らせるため、画材としての使い道は難しかった模様。そこで筆は筆として、架空の宇宙人の言語をイメージした文字をデザインに。梵字に似た不思議な文字が踊っています。

「ミルキーブラッシュやデュアルメタリックブラッシュは仕上がりを想像できない道具だったんですが、使ってみて一番楽しかったですね。お互いを混ぜても濁らないので、グラデーションを作ることもできる。きっと多くの人は、文具のインキがキャンバスにここまでしっかり食いつくとは思ってないんじゃないでしょうか?」

身近な文具を使って描く楽しさこそ、普段とは違った“はみだす”楽しみなのかもしれません。では、名越さんにとっての王道とは…?そんな問いを投げかけると、「キャンバスに描いていること」との答えが。
確かにはみだすといいながらも、様式だけ見れば昔から使われているキャンバスにスキージーで描かれた抽象画。組み合わせとしては王道かもしれませんが、それを文具で表現したうえにバッグに仕立てるところが、名越さんの「はみだし」なのです。

04#04:振り返り

無心で楽しむ表現の先にあるデザイン

「実は大学時代作品のアイデアに困ると、毎回バッグ作りに逃げてて…」と名越さん。けれども今回の制作の中で、バッグに対しての概念が大きく揺らぐ発見もあったようです。

「バッグって部屋や家に近いというか。きれいに整頓されていたり物が散乱してたり、バッグの中身にその人の性格が表れてたりして、道具として魅力的で。ものを運ぶ機能以上に、バッグ本来の持つキャラクターが美術作品として成立することに気づきました」

生地を裁断して縫い合わせ、三次元に立ち上がった瞬間にようやく安心するのがバッグ製作の醍醐味。だからこそ今回は、どこの図柄を切り取るかについても相当な悩みどころだったそう。制作の過程ごとに、葛藤、迷い、画材との距離感などが如実に投影されている点も、この作品の面白さです。

「最初は混沌としていたり、やりすぎたと思う部分もあって。けれどもこの時期が一番自分が出ておらず、純粋に描いていると思うんです」

「反対に、絶対に濁らないだろうっていう浪人生時代からの僕の必勝パターンの配色があって。このボディの部分は、そういう意味で僕っぽいというか…」

さらに4個のバッグの中で一番私たちからの人気が高かった作品は「選ばれちゃうっていうことは、要は綺麗にまとまっているということ。うまく生かそうとしているからこうなっちゃう」と、普段のデザイナーとしての名越さんが出ていると言います。

かたちも大きさもデザインも各者各様ですが、共通するのは「名越さんらしい宇宙の誕生」。どう感じたかは、受け取り手次第です。
「僕の考えが伝わらなくてもいいなって思っています。基本的に解ってもらおうと思って作られたものは、それが既に作ることを楽しんでいるかどうか怪しくて。純粋に描きたい、表現したいっていう原始のよろこびを感じてもらいたいんです」

デジタル全盛の時代だからこそ、「戻るボタンで戻れないことを楽しむ力」を持ってほしいと名越さん。もっと失敗や偶然を楽しんで、「キッチリと完璧にこなすことが全てではないんだよ」ということを知ってほしい。そんなメッセージも作品には込められています。

このバッグを名越さんが使うとしたら、中に何を入れてどこに出かけますか?

そんな質問を最後に投げかけてみたところ、まったく想像していなかったとの答えが。
「そうですね…。僕自身色々なバッグを持っていて、服装や目的に合わせて持ち変えるのが好きなんです。白いTシャツとジーンズに定番スニーカーのような服装で、あえてバッグが目立つようにして色んなとこに連れて行きたいです!」
絵画であれば飾って楽しむだけですが、バッグに仕立てれば、アートを気軽に好きな場所に連れて行ける。そんな発想も、今回の「はみだし」の一つです。

普段の仕事とは異なりゼロから自由に創作したからこそ、自身が持つバッグへの価値観や自分らしくない表現が発見できたのは、名越さんにとっても大きな収穫だったはず…。
さて、次回はどんなはみだしが見られるのでしょうか?お楽しみに!

名越さんの24h

総制作時間は24時間。工程の合間ごとに「悩む」時間が挟まれていますが、なかでもバッグの形状と絵の組み合わせ方については、最後の最後まで悩んだそう。バトンを渡されたときから「どうしよう」と「おもしろそう」の気持ちが揺れ動いていたようです。