ぺんてるモノ物語

自動芯出しをこれからのシャープペンのスタンダードに。オレンズATに込められた技術と想い

自動芯出しをこれからのシャープペンのスタンダードに。オレンズATに込められた技術と想い

品質と機能美が認められ、世界中のプロに選ばれているグラフ1000、タフに使える一般向けシャープペンとして人気を博したスマッシュ、半世紀にわたり追求してきた技術を結集したフラッグシップモデルとして「自動芯出し機構」を搭載したオレンズネロ……。 長きにわたり数々のシャープペンを世に送り出してきたぺんてるが、これからの世代の中高生たちに、そしてより多くの方に、もっと高性能で使いやすくていいシャープペンを届けたい、そんな想いから生まれたのが、2023年1月に発売された「オレンズAT デュアルグリップタイプ」です。ATとはAutomatic Technologyの略。自動芯出し機構をこれからのシャープペンのスタンダードにすることを目指し、突き進んできたメンバーのみなさんにお話を伺いました。

オレンズAT担当メンバー

  • マーケティング担当/小平(写真左)
  • 企画担当/大澤(写真左から2番目)
  • 開発担当/小林(写真右)
  • デザイン担当/柴田(写真右から2番目)

01シャープペンの心臓部をゼロから再構築。 新構造の「自動芯出し機構」。

オレンズATの企画は、どのように始まったのでしょうか?

大澤長きにわたり数々のシャープペンを世に送り出してきた会社として、これまで培った技術を使って、もっと多くの方が普段使いできて、かつ高性能のシャープをつくりたい、と考えたところがスタートでした。
今の中高生たちにとって本当に使いやすい新しいシャープペンって何だろう、と改めて考えたときに、欠かせない機能だと思ったのが、1回のノックで芯が1本無くなるまで書き続けられる「自動芯出し機構」です。

企画担当 大澤

小平シャープペンは数百円でも手に入るモノですが、他社を含め、1000円台のシャープペンが現在のシャープペン市場のシェアにおいて重要な立ち位置になっているんです。これは我々が2017年にオレンズネロを発売し、「高級シャープペン」というゾーンを開拓してきたことも一つの要因だと考えています。
安ければいい、書ければいい、というものではなく、毎日使うものだからこそ良いものを使いたいというニーズは中高生の間でもあって、比較的高価格帯のシャープペンも受け入れられやすい市場になってきています。

大澤この流れの中で、新しい世代の子たちに、日常的に使いやすくていいシャープペンを持ってほしい、最新の技術で普段使いのできる高性能シャープペンをつくりたい、と今回のオレンズATの企画につながったというわけです。

柴田2017年に発売したオレンズネロも、自動芯出し機構を搭載しています。私自身、発売当初からオレンズネロを愛用していて自動芯出し機構に慣れ親しんでいるので、普通のシャープペンに戻るとノックをすることをつい忘れてしまうほど。それほどインパクトのある機能なんだと思っています。

自動芯出し機構の仕組み

ノックせずに書き続けられるから勉強にも仕事にも没頭できる。使い込めば使い込むほど普通のノック式シャープペンにはもう戻れないという人も。

大澤今回のオレンズATが普及することで、柴田さんのような方が増えていけばいいなと思っています。オレンズネロが登場したころは、新しいもの好きとかメカ好きの人が使っていた印象でしたが、だんだんと愛用者が増えて、立ち位置が変わっていったんですよね。
スマッシュが、それまでプロ向けというイメージが強かった製図用シャープペンを、一般の方でも気軽に普段使いできるものにしたように、今回のオレンズATも、これまで敷居の高かった自動芯出し機構をもっと多くの方に手に取っていただけるものに、そしてこれからのシャープペンのスタンダードにすることができたらと思います。

小林中でも今回のオレンズATは、シャープペンの心臓部である、芯を掴むチャックという部分の樹脂化にトライした製品でもあります。ちなみにオレンズネロは金属のチャックを搭載しています。

なぜ樹脂を採用しようとしたのでしょうか?

大澤もともと自動芯出し向けの金属チャックと樹脂チャックは、同時に研究がスタートしていたんですよ。金属の方が先に完成したのでオレンズネロに採用し、樹脂の研究は一旦ストップしていたのですが、今回、自動芯出し機構をより多くの方に使っていただく為のモデルを検討する中で、量産がしやすい樹脂チャックに再チャレンジすることになりました。

柴田シャープペンの部品って精密部品なんです。金属の方が動作も精度が高く、耐久性もあるのですが、量産には向かないということもあって。

小林一方で、樹脂のチャックにも課題がありました。オレンズネロで使用している金属のチャックの部品は金属を削り出してつくっているのですが、その構造上、全く同じ形状のものを樹脂でつくることはできず、樹脂チャックのために新たな専用の型をつくる必要がありました。また、チャック以外の部品も一部金属から樹脂に変えましたが、樹脂は金属よりも強度が低いので、同等の強度を出そうとすると一つひとつの部品に厚みが出てしまい、軸の太さにも影響してくるという……。

開発担当 小林

中央の部品がチャックの入っている部分。細かな部品の素材から地道な見直しを行ったそう。

柴田最初はグリップの太さは10mmを目指していたのですが、樹脂を採用したことで10.8mmになったり10.5mmになったりと紆余曲折で。そこで内部構造から見直していきましたね。

小林チャックの入っている部分の部品点数はオレンズネロとほぼ変わっていないので、厚みのある樹脂部品を使用すると、どんどん太くなっていくんです。しかも今回は外側にデュアルグリップが付いているので、内部はまったく余裕がなくて。薄くできるところは薄くしながら、柴田さんに何度か見せて……。

柴田何度かどころじゃなかったね(笑)。

小林素材・形状も含めると20個以上のプロトタイプをつくって、検証しての繰り返しでしたね。

オレンズATはオレンズネロ同様に自動芯出し機構搭載のシャープペンでありながらも、20個以上ある部品のうちのほとんどが新しく生み出された形状というニューモデル。つまり両者の内部構造は、全くの別物なのです。そんなゼロからの開発となった自動芯出し向けの樹脂チャックは、今後のシャープペン業界のスタンダードとなるかもしれない代物。社を挙げての一大プロジェクトだからこそ、メンバーは、日々大きなプレッシャーと闘っていたといいます。

02キーワードは「思考を止めない」。ぺんてるのシャープペンらしさが詰まった1本。

学生がメインターゲットだそうですが、大人っぽいシックな色味ですね。

柴田オレンズATの最大の特徴は自動芯出し機構ですが、それを中高生がどんなシーンで使うのかを考えると、授業中や試験中だったんです。

大澤キャッチコピーは「思考を止めない。」にしたのですが、イメージしているシーンは机の上に限られた筆記用具しかない試験時間。あっという間に過ぎてしまう試験時間にも、いつも通りに落ち着いて、考えることに集中できるような、勝負の一本になってほしいと考えています。

柴田そういうシーンを考えたときに、色も邪魔にならないほうがいいのではと。じゃあ「邪魔にならない色って何だろう……」と考えたときに出てきたものが、学校や試験会場になじむ色。制服やネクタイに使われているトラディショナルな色であれば違和感がないのではと選びました。

大澤あとは思考を止めないためには、持ち手部分が気持ちよく書き続けられるようでなければなと。そこで、「一番使いやすいグリップとは……」となったときに、金属とゴムを使用したぺんてる独自のデュアルグリップに辿り着いたんです。

デュアルグリップが採用されている製品たち。上から、グラフ1000<フォープロ>、スマッシュ、オレンズAT。

柴田自動芯出し機構シャープペンの普及モデルとしてのデザインを考えた場合、より多くの人が普段使いしやすいデザインを意識しました。また、ぺんてるにはこれまでのシャープペンの歴史や長年の技術の蓄積があります。過去のぺんてるのシャープペンの歴史や技術が引き継がれ、オレンズATが生まれたということを表現したいという考えに至りました。

大澤今回のオレンズATは自動芯出し機構搭載のシャープペンとして、「デュアルグリップを採用するならば、円形ではなくオレンズネロ同様に12角形にしないといけないよね」という話に自然となりました。12角形の形状もデュアルグリップもそれぞれでは採用していましたが、それらを掛け合わせたグリップをつくるのは実は、初の試みでした。

ラバーと金属から成るデュアルグリップは、ぺんてる特有のデザイン。

小林その12角形のデュアルグリップをつくるのは大変だったんですよ(笑)。

大澤金属でしっかりと握れる上、ゴムが付いていることで滑りにくいのですが、この形状を実現することがとにかく大変で。

柴田最初は違う形状の案もあったのですが、量産できる形を常に検証しながら、ここに落ち着いたというか。デュアルグリップに関しては、ギリギリまで何度も何度も試作検討を繰り返しました。

小平よく諦めずに理想形に辿り着きましたね(笑)。

デザイン担当 柴田

12角形のボディでデュアルグリップを実現するまでにはたくさんの苦労が。だからこそ完成したオレンズATには唯一無二の存在感があります。

大澤開発チームがこれだけ苦労したからこそ、今回の製品ではデュアルグリップも伝えたい部分でした。だからこそ製品の正式名称は「オレンズAT デュアルグリップタイプ」に。将来的にもシリーズが出るだろうと思い、最終的にこのネーミングに決まりました。
全長はオレンズネロよりも少し短め、製図用シャープペンから生まれた人気製品「スマッシュ」と同じ長さです。「思考を止めない」ための書き心地を追求した結果、この長さになりました。
また、自動芯出し機構により筆記途中のノックが不要であることを表現するため、ノックパーツはミニマムに設計。ぺんてるのシャープペンのDNAを受け継ぎながらも、細部までこだわり抜いた“ぺんてるらしさ”あふれる一本として仕上がっています。

03より多くの人に愛してもらいたい、オレンズATらしさ。

プロジェクトの中で、ターニングポイントはありましたか?

大澤「オレンズATだからこその価値って何だろう…」と話し合った時期がターニングポイントですかね。

柴田形が決まっていないときは、各々のイメージは割とバラバラだったと思います。オレンズネロと同じ自動芯出し機構を持つシャープペンとして、オレンズAT独自の存在意義も欲しいわけで。違いをどう出すのかは、最初から悩んでいました。

オレンズATの存在意義を探るため、デザイン面からも他のオレンズシリーズと比較して独自の立ち位置を探っていったそう。

大澤検討していく中で、オレンズネロの「所有感」というキーワードに対し、オレンズATは、「普段使い」や「落ち着き」といったキーワードが出てきたんです。

小平私はその大澤さんが出した「落ち着き」のワードを常に意識していましたね。迷ったときは「このパッケージって落ち着いているのかな、このディスプレイって落ち着いているのかな」と自分の中の指針にしていました。

マーケティング担当 小平

柴田「落ち着き」とは気分を落ち着かせて、いつも通りの実力を試験で発揮させるイメージですね。当初はカラーバリエーションをたくさんつくろうなんて話も出たんですが「ちょっとそれはどうなの?」と。みんなのイメージがだんだんと統一されていった感じですね。

大澤限られた人にとっての所有感を満たすものではなく、より多くの人にとって、使いやすいもの、いいものをつくろうという方向性になり、今の完成イメージがしっかり共有できたのかなと思います。車で例えるならば、オレンズネロは扱いが難しいが極限までスピードを求めたF1マシンで、オレンズATは普通の免許でもスピードを体感できる公道を走るスポーツカー。私はオレンズネロも好きですが、書きやすさでいえば、正直なところオレンズATの方が好きですね。

柴田オレンズネロとオレンズATはどちらも低重心ですが、オレンズネロの方が重く手にずっしりと馴染んでくるので玄人向けですね。

小平社内向けに新製品発表会を行ったのですが、その時は “オレンズネロの廉価版”と考えている人もいました。しかし完成品を見て、開発側の長いストーリーを知ることで、製品のよさをみんなが理解してくれたんです。

柴田長年のプロジェクトだったということもあり、実は私以外は、担当者が途中で全員変わっているんです。秘伝のタレのように、前任者からの熱い想いを継ぎ足してやってきました(笑)。そんな中、新しい担当者たちがブラッシュアップする方向の意見をどんどんと出してくれたのはいい流れでしたね。

小平私自身シャープペンの担当が初めてで、しかも途中から参加したのですが、この完成のタイミングに居合わせることができたのは幸せなことだなと思っています。

そのほかに、プロジェクトの中で苦労されたことはありますか?

大澤筆記性能のテストですかね。テストは機械だけではなく実際に人が書いて判断しています。自動芯出し機構は筆圧の差でも芯の出る量が変わるので、機械を使って一定の筆圧で検査するよりも人が書いてテストする方がより厳しい試験となるんです。試作をするたびに実際に原稿用紙に書いてもらってトラブルがないかを調べました。1回の試験につき原稿用紙50枚くらいかな。

50枚!!!

小平社内、社外も合わせて総力戦でしたね。

大澤芯が自動でちゃんと出続けるかは一番大事な機能のところですよね。だからこそ50枚ちゃんと書けたのか、途中で芯が詰まらなかったのかというのを人力で延々と調べましたね。

小平テストした原稿用紙がつまった段ボールがいっぱいで本当にびっくりしました。

手書きによる膨大な検証の軌跡。多くの人の意見や感覚を通して、より良いモノづくりをするという信念に基づいています。

長さ・重さ・太さと数字で表現できるスペックがある中、つくり手だからこそ“書き心地”や“安定性”という数値化しにくい部分を言語化できる土壌が筆記具メーカーには根付いているといいます。AI全盛の時代ではありますが、筆記具においては最終的なジャッジを下すのはやはり人。ぺんてるの開発メンバーが頭を悩ませて完成させたオレンズATは、果たしてどんな使い心地なのか。ぜひ店頭で手に取って体験してください。きっと、普通のシャープペンに戻ったときにノックを忘れているはずです。