ぺんてるモノ物語

替芯は“どれでもいい”から“これじゃなきゃ”へ!「Pentel Ain」が目指すもの

替芯は“どれでもいい”から“これじゃなきゃ”へ!「Pentel Ain」が目指すもの

デザイン性に機能性と、好みが如実に反映されるシャープペン。ですが忘れてはならない、いや、なくてはならない相棒の替芯はどうでしょう?きっとほとんどの方は「そろそろなくなりそう」といった理由で、手持ちのシャープペンに合う芯径の製品を“なんとなく”購入しているのではないでしょうか。

今回はそんなシャープペンの替芯を主役に開発秘話のあれこれをお伺いしました。
2023年1月に発売となった「Pentel Ain」は、替芯・ケース・デザインの全てを13年ぶりにリニューアル。シャープペンのよき相棒として、そして“選ばれるアイテム”へと昇華させるべく頭を悩ませたというメンバーの面々に、お話を伺いました。

Pentel Ain担当メンバー

  • マーケティング担当/水口(写真右)
  • 企画担当/大澤(写真右から2番目)
  • デザイン担当/梅谷(写真中央)
  • 開発担当/山本(写真左から2番目)・坂田(写真左)

01Ainの名前を守っていきたい! 伝統あるメーカーとしてブランドを再定義。

1960年に世界に先駆けて、合成樹脂を配合したシャープペン替芯 “ハイポリマー芯”を世に送り出したぺんてる。オリジンメーカーとしての心意気を胸に、登場から60年以上経った現在もシャープペンに最適な替芯の研究が続けられているのです。
近年は、いかに折れない替芯を生み出せるかが各社の開発ポイントとなっていましたが、13年ぶりのブランド刷新となる今回のキーワードは、“なめらかさ”。Ain替芯の歴史を踏襲しつつもアップデートされた新製品には、果たしてどんな想いが込められているのでしょうか。

なぜここにきて、13年ぶりのブランド刷新となったのでしょうか?

大澤実は替芯の研究は、ずっと行われてきているんです。なので、なぜ今なのかといえば、いいものができたからというのが大きな理由。13年かけて、やっと発表できる段階まできました。

企画担当 大澤

水口替芯はボールペンやシャープペンのように、毎年新製品がバンバン出る感じではなく、十数年かけて、ようやく少し機能がアップできるようなカテゴリーなんです。

梅谷ただ新製品といっても、ネーミングは昔から使われている「Ain」でいきたいという気持ちがチームの中ではありましたね。

大澤替芯から始まったAinシリーズの前には「ハイポリマー」というネーミングのシリーズを出していたのですが、途絶えてしまったんですよね。シャープペンメインユーザーのインサイトを探ると「不変であることに魅力を感じる」という声も多く、Ainという名前はずっと続けていきたいというのがあって……。

ぺんてるのシャープペン替芯年表

水口社内の一部からは「ブランドを刷新するこの機会に、名称も大きく変更してもいいのでは」っていう意見もありましたよね。替芯の製造工場が埼玉県吉川市にあることから、製品名には珍しく「吉川」という地名を入れるアイデアもありました。
もともとAinはドイツ語で「1」の意味を持つ「ein」から、ナンバーワンという意味を込めてつけた ネーミング。ただeinだと覚えにくいよねとAinになったのですが、この名前を残すのならば残すで、きちんと意味を再定義しようということになり……。

マーケティング担当 水口

大澤発売に向けた中での最後の大きな山はネーミングでしたが、そのときに「この製品の価値ってなんだろう、自分たちのつくってきた伝統ある替芯とは」と考えましたね。知らない人に「Ainってどういう意味?」と聞かれたときに、どう答えたらいいのだろうと。

水口替芯には折れにくさ・濃さ・なめらかさといった色々な項目があるのですが、それら全てが高いバランスを保っているところが今回の製品の特徴なので、それを元にAinというネーミングの意味を再定義しました。

大澤バランスのよさや、ハイポリマー芯を世界に先駆けて発売したメーカーという安心感なども含め、全て入っている「Ain=ALL-in(オール-イン)」という意味を込めたんです。

水口市場調査を行った結果、Ainというネーミングがある程度認知されていたという事実も、名前を残すことにつながりましたよね。

大澤「あなたの知っている替芯を教えてください」という調査をしたことがあったんですよ。そのときに「Ain」って答えてくれる人と「ぺんてる」って答えてくれる人がいたので、それならば一緒にして「Pentel Ain」とした方がいいんじゃないかなと。また、社名である「ぺんてる」をつけることでハイポリマー芯のオリジンメーカーであることや伝統を伝えられるのではないかと考えました。

水口中高生はシャープペンを毎日すごい頻度で使うのに、なぜか替芯の方は注目されないんですよね。

確かにシャープペン本体は好みが出ますが、替芯へのこだわりはあまりなさそうですね。

水口そうなんです。ボールペンは製品ごとに替芯が決まっていますが、シャープペンは他のメーカーの替芯でも使えることもあって……。そんな中で「この替芯を使いたい!」と思ってもらえるようなブランドになることを今回は目指しています。

大澤使ってみて「あ、いいな」って思ってもらえるものでありたい、Pentel Ainを信頼してほしいって思っています。

水口あとは調査をしていく中で、今の中高生たちが自分のこだわりのあるものは購入前に徹底的にリサーチするけれども、そうでないものに対しては調べる手間をかけたくないと感じる方が多いことが分かってきました。だったら最初から「シャープペン替芯の定番品だから安心して使ってください」という想いをメッセージに込めています。

Pentel Ainのメインターゲットは、本格的にシャープペンを手にするタイミングとなる中学生。そのためキャッチコピーは「なめらか芯を、君のチカラに。」と、勉強のパフォーマンスを最大限に引き出してくれる黒子であることを、ブランドのアイデンティティとしています。初めての替芯にPentel Ainを選んでもらい、それが彼らの定番となって、大人になってからも長く使い続けていただきたい––––。キービジュアルの外にまで続くように描かれた細いラインにはそんな想いが込められているそうです。

02矛盾する要素をオールクリア! 高次元のバランスを保つ新素材との出会い。

替芯の研究では、どの点が難しかったですか?

坂田Pentel Ainではなめらかさを向上させようと研究を進めていました。ただ、ひとつの特性を伸ばそうとすれば、他の部分の特性が落ちるんですよ。例えば折れにくくしようとすると筆記線の濃さが薄くなりますし、逆に濃くしようとすると折れやすくなったり、手や紙が汚れやすくなったりします。汚れにくくしようとすると今度は消しにくくなるなど……。折れにくく、濃く、なめらかで、汚れにくく、減りにくく、消しやすいといった高次元のバランスを実現できる新素材をずっと探し続けていました。
また、7種類の芯径、7種類の硬度のラインアップがあり、品種によって最適設計を決めなければいけないため、 全品種を量産体制にまで持っていけるのだろうか……という焦りは正直ありましたね。

開発担当 坂田。今回のプロジェクトでは替芯そのものの開発を担当

大澤替芯の状態では硬く折れにくいけれど、書くときはなめらか。ちゃんと紙に定着して汚れにくいのに、消しゴムで消えやすいと。

坂田ぺんてるの替芯は紙繊維との摩擦力が小さく、なめらかな筆記感となっています。今回のPentel Ainではそのなめらかさをさらに向上させるという難題に挑戦しました。

その無理難題を解決したものは何だったのですか?

坂田潤滑性のある特殊オイルですね。開発チームの1人が「このオイルを原材料に混ぜたら滑りやすくなるんじゃないか」と言い出したんです。最初は「そんな単純な話じゃないでしょう……」と半信半疑だったのですが、実験してみたら意外なことに、それが確か になめらかさに繋がったんですよね。日々、本当に様々な素材を試しているのですが、その中で偶然見つかった常識外の発見でした。

替芯の開発や研究において、役に立った経験はありましたか?

坂田海外出張に行った際に、原料である黒鉛の採掘現場を見学したことです。文献で読んではいたのですが、実際どういう風に掘られているのかを見るのは初めてで。

梅谷そのときのお話を聞きたいと思っていました!

坂田採掘現場は山にあって、エレベーターでかなり深いところまで降りていくんです。坑道は整地されたような場所ではなく、ゴツゴツと岩肌が出たトンネルを1kmほど歩くんですよ。電気も数百mおきにしか点いていないので暗いし、ものすごく怖かったですね……。

実際に採掘体験はされたのですか?

坂田トンネル内で爆薬を使って破砕することもあり、危険なので採掘はさせてもらえませんでした。実際の採掘では、岩盤を爆破した後、粉塵が収まってから採掘場所に向かうのですが、そこにはランタンを持っていくんです。ランタンが消えたら、酸素がないから逃げろという合図。「ちゃんとチェックしろよ」と最初に言われましたね。

全員過酷!

坂田黒鉛という素材は粉末の状態で当たり前のように工場にあるものですが、それを採掘する現場のことは全く考えたこともなかったですから。鉱石を粉末にして黒鉛にする過程を直接見て、非常に過酷な現場も体験したことで、大切に使わないといけないなと。現場のみなさんの苦労や熱意を汲んで「私もよりよい製品をつくらなくては」という気持ちになりましたね。

アイン替芯シュタインの性能はそのままに、スルスルとなめらかな書き味を実現したPentel Ain。細い1本の替芯の中には、ぺんてるの研究の歴史と、危険と隣り合わせの現場で働く人々の努力が、ぎっしりと詰まっていました。

0336ヶ月にも及ぶ行動調査を実施! 結果から導き出された2段階ロックのケース。

山本ケースの動きは、各社が違いを出したがるところなんです。今回は開発期間として約36ヶ月、延べ300人以上を対象に調査を行ったのですが、動きのギミックや使い勝手のよさを踏まえて最終的にこの形を選びました。

試作サンプル(写真左)と量産サンプル(写真右)。

替芯を一本ずつ取り出せるスライド構造。替芯が飛び出しにくく取り出しやすい。

調査を行う中で、どんなことが判明しましたか?

山本右利きの人が左手で開ける場合もあればその反対もあるなど、色々なことがわかりました。なんとなく「こうなのではないか」と想像していたことと実際のユーザーの行動はかなり違いましたし、その行動も人によって千差万別だということが改めてわかりましたね。

水口傾向がないということがわかった調査だったかもしれませんね。

梅谷他社製品も含めて50個くらいのケースを参考にしながら、吉川工場に月に1回集まってアイデア検討会議を行いましたね。

大澤最初に「一番使いやすいケースとは何か」というお題目を立て、挙がった項目の中から、「必要な本数が取り出せる・傾けなくても取り出せる・勝手に開かない」という3つを念頭に置いて、試作とユーザー調査を繰り返す中でできあがったものです。

開発担当 山本。今回のプロジェクトではケースの構造を担当

山本使いやすさを考えたときに、ケースを開けてからシャープペンに入れ終わるまでに何アクションかかるのかを、従来品のケースを使って行動分解してみたんです。従来品の場合は、一回ケースを置いたり、替芯を出してからケースを閉めたりと意外とたくさんアクションがあったので、それをどのくらい減らせるのかを考えました。

では、アクションが少ないほど使いやすいケースなのでしょうか?

山本そういうわけでもないんです。最初は横にスライドするだけで取り出せるケースを試作したのですが、1アクションで開けられるものの、落としたときに全部の替芯が広がってしまうなどの不安感がありました。毎日使うものだからこそ安心感も取り入れたくて、2段階で開ける今回のケースに辿り着きました。

梅谷ケースが2段階で開ける形になっているのですが、扱い方が新しいからこそ、これをどうわかりやすく伝えようかと考えました。そこで芯径を伝えるアテンションシールで使い方を明示したうえで、シールを剥がした後もわかるように鍵マークをつけました。

ケースのデザインはどのように考えたのでしょうか?

梅谷そういえば入社したばかりの研修時に「何でぺんてるの替芯の凄さをこれまで知らなかったんだろう!」と思ったんです。だからこそ今回は「ぺんてるの替芯ってすごいんだぞ!」っていうのを打ち出すべく、ケースの色味もあれこれと検証しました。

大澤以前のケースは店頭でわかりやすいよう、芯径や硬度ごとに青・赤・黄など色を分けていたんです。カラフルなケースは売り場ではしっかり目立っていたんですけれど、いざ筆箱に入れる時に好きじゃない色だったらどう思うのかなと。

梅谷そんな思いもあったので、今回のPentel Ainのケースは黒をベースにしました。ぺんてるのシャープペンは黒軸のものが多いのですが、それとも合わせやすい配色を意識しています。勉強の邪魔にならず、安心信頼できる雰囲気に仕上げました。

坂田デザインも機構も非常にいいケースだったので「替芯も負けないように!」と、開発に取り組みました。

では、そんな安心感がたっぷり詰まったPentel Ainに、どのように成長してもらいたいですか?

水口今の中高生世代の定番になってほしいですね。

大澤0.3mmや0.5 mmが一番使われる芯径ではありますが、今回は7種類の芯径、7種類の硬度のラインアップがあるので、テストの際のマークシートで使われたり、アートの画材として使われたり、シャープペンの世界が広げられたらいいなと思っています。

坂田シャープペンと替芯にも相性があるので、そこも気にしてもらえたら嬉しいですね。多くの方は書いているときに替芯がボキッと折れると思っていますが、実はシャープペン内部の替芯を掴むチャックという部分で替芯が噛み切られることもあります。

山本Pentel Ainは、ぺんてるのシャープペンに合わせて作られていますので、もちろん相性はバッチリです。ぜひ、ぺんてるのシャープペンで使って欲しいですね。ケースに関しては自分の考えに固執せず、社内やユーザーの皆さんからの意見をたくさん聞いて作り込んでいったので 、そういった部分も少しでも伝わっていったらいいなと思っています。

梅谷そういえば言い忘れていましたが、今回のケースには裏技があるんですよ!

山本そうそう!0.3mmや0.5 mmなど細い替芯ならば、ケースを開けてから全部の替芯を右に移動させ、さらに左に傾けて戻すと、右側に1~2本の少量の替芯だけを残せるようにしています。カタログには載せていない、遊び心を入れた裏技です。

確かに1本だけ右側に替芯が残っている……!と思わぬウラバナシも。

タブレットを使用した授業も本格的にスタートするなど、昔と比べると書く作業は減りつつあります。けれども反復学習には「書く」「消す」といったアナログ作業の方が有利な場合もあり、書くことは達成感を味わうことにも繋がるとチームの面々は考えているそう。Pentel Ainが今の中高生の定番替芯となり、2段階ロックの動きが世代の共通言語となる日はくるのでしょうか?今後が楽しみです!