ぺんてるモノ物語

心躍るマットなカラーが世界を席巻!?あそび倒すボールペン「MATTEHOP」開発秘話/ #2インキ開発編

心躍るマットなカラーが世界を席巻!?あそび倒すボールペン「MATTEHOP」開発秘話/ #2インキ開発編

Z世代をターゲットに2023年8月30日に発売された高発色マットカラーボールペン「MATTEHOP(マットホップ)」。紙はもちろん、写真やマスキングテープといったツルッとした面にも描けるため、あそびの幅が大きく広がる一本です。

輸入雑貨のようなパッケージに本体カラーリングと、見た目にもとことんこだわった製品ですが、その実力を知るのは使ってこそ。“実在級インパクト”と表現した新開発のインキは、ぺんてるの技術の真骨頂なのです。製品化に漕ぎ着けるまでに約5年。インキを我が子のように大切に育ててきたという開発メンバーの面々に、お話を伺いました。

MATTEHOP担当メンバー

写真左から
・開発担当/樫村
・企画担当/髙井
・研究担当/野口、倉賀野

01細いボディに詰め込まれた新技術。約5年もの歳月をかけたインキの研究開発。

ボールペンと一口にいっても、中のインキは千差万別。今回登場したMATTEHOPは、黒い紙の上に書けると女子中高生の間で一大ブームを起こした「ハイブリッドミルキー」とも、好評につき2017年から2021年まで毎年限定品が発売されていた「ハイブリッドデュアルメタリック」とも全く異なる新技術によって生み出されました。
海外に向けた8色の研究からスタートしたインキ開発ですが、MATTEHOPの名が付くまでは、その色味から“某デンマークのブロック玩具”の愛称で呼ばれていたそうです。

インキの研究開発はどのような経緯で始まったのですか?

野口技術研究所で新製品のアイデア出しをしているときに、通常のボールペンとは異なって彩度がすごく高くて発色がいいけれども隠蔽性もあるインキっておもしろいんじゃないかという話になって。私たちは黒・赤・青などのボールペンの基本的な色以外の色を“色モノ”と呼んでいるんですが「色モノは海外の方がウケそうだよね」と海外経験豊富な方からアドバイスがあり、海外に持っていったところ好評で、研究開発が本格的に立ち上がりました。

髙井これまでにもハイブリッドミルキーやデュアルメタリックといった色モノが出てきた中で、次の製品として出していこうかなと。

企画担当 髙井

倉賀野原色系の色をどんな紙の上でも出せるというところをメインに、レッド、イエロー、ブルー、グリーン、オレンジ、バイオレット、ブラック、ピンクの8色から研究がスタートしました。

野口当初は企画担当者と一緒に細かくバランスを調整しつつ、色出しや性能出しを行っていました。この辺りのバランスを狙っていきたいというインキの方向性を決めたのが第一段階。次はそのインキが数年間使える状態にするためにはどうしたらいいのか……というのを、さらにそこから約3年にわたり試行錯誤していきました。

研究担当 野口

倉賀野最初の段階で高発色・高隠蔽のインキはある程度できるんですが、すぐに書けなくなるんです。どのように製品としての品質を担保するかが一番苦労したところですね。

樫村野口さんが研究テーマを立ち上げた初回から数えると、研究室内での試作品だけでも1000は超えるかなと……。

そもそもマットな質感に、なぜこだわったのですか?

髙井マットにこだわったというよりは、高発色・高隠蔽にこだわった結果マットにつながったんです。高発色・高隠蔽のインキを作るのであれば、マットが一番相性がいいというか。

樫村今回は隠蔽力を保つために非常に大きい粒子をたくさん入れた結果、マットな質感を実現できたのですが、だからこそ色々大変だったという。

開発担当 樫村

髙井他にもインキについて言いたいことがたくさんありますよね、野口さん!このインキはすごいんだぞ!と。

野口黒い紙の上でもインキ色がはっきり見えるためには、隠蔽性のある白色顔料を使うのが今までの技術でした。ただ、それだとインキ色もハイブリッドミルキーのような白が混ざった淡い色合いになってしまうんです。一方で、MATTEHOPは黒い紙の上でもあれだけ鮮やかな色味を出せる特長があります。この性能を出すためには、隠蔽性のある白色顔料を多用することができず、そんな中で試行錯誤して作り上げた、ハイブリッドミルキーとは技術が全く異なる面白いインキなんです。似ているから簡単でしょう……って思う人もいるかもしれませんが、鮮やかさと隠蔽力の両立ができたのは、すごいびっくりすることなんですよ!知ってほしい!

髙井こういうボールペンの外装に入ってしまうとインキの凄さが伝わりにくいんですが、この細いボディの中に収めたっていうのは本当にすごい技術なんですよ。一般的な高発色・高隠蔽のカラーインキの場合、使い始める前にインキが均一になるよう修正液のようにカチカチと振る必要がありますが、MATTEHOPはボールペンの形態なので、そのままストレスフリーで描き出せるんです!

海外からの要望を受け、レッド、イエロー、ブルー、グリーン、オレンジ、バイオレット、ブラック、ピンクの8色から研究開発がスタートしたMATTEHOP。実はその当時より国内での販売時には色数を増やすことが決まっていたため、次なる試練は新色の調合と設計。企画担当者の髙井さんが研究出身だったからこそ、開発メンバーに色味のイメージを的確に伝えられたそうです。

02頭の中にある色相イメージを共有。新色づくりに苦戦する日々。

研究開発スタート時の8色は、企画側から色味の提案があったのですか?

倉賀野8色の色味に関しては、研究開発側で決めさせてもらった部分が大きいです。こういう色でいきたいと。

研究担当 倉賀野

野口事前に8色をベースに今後も増色することが決まっていたので、色を増やせるよう、互換性の高い材料のみを使用したインキ設計を行いました。色相環の外側を満遍なくピックアップした色設定にしましたね。

樫村ただ、私が携わった追加の6色、イエローオレンジ、スカイブルー、イエローグリーン、コーラルピンク、アイボリーホワイト、ブラウンは、8色で決められた範囲でやらなければならないので限界があり……。8色にはない中間色を作るため、少し色を入れてはひたすら混ぜるという単純作業を繰り返していました。やはり色調整に隠蔽性のある白色顔料が使えないからこそ大変だったんですよね。

髙井限られた材料の中で色調整するのが難しかったですね。

言葉で表現しにくい微妙な色合いを、チームでどうやって共有したのですか?

野口大雑把にいえば、色って球体の分布になっているんですが、その球体がみんなの脳内にあるんです。だから色のイメージを伝えるときには「球体のもうちょっと赤側にラウンドして移動してほしい!」みたいな。

髙井私も元々はインキを作る研究側だったので、そのあたりはうまくコミュニケーションが取れましたね。

樫村髙井さんだからこそ、説明をすぐに理解してくれる。インキの設計思想を髙井さん以外の企画やマーケティングの方々に伝える際には図や資料を作り込んだのですが、そこも結構苦労しましたね。

髙井樫村さんは仕事がすごく丁寧で「この色を狙っている」と伝えると、その周辺の色味をくまなく出してくれて。研究出身じゃなかったら見分けがつかないんじゃないかというほどです。

樫村中でもイエローオレンジとイエローグリーンの微妙なニュアンスは大変でしたね。スイートのカラーには黄色系が多いのですが、人間の目って黄色味を見分ける力が弱く、細かいニュアンスが伝わりづらいんですよ。だから配合パターンを増やし、一日に30〜40種類をせっせと調合していましたね。

髙井作成したインキはヘラでシャッと伸ばす“ヘラ引き”によって色を確認しています。ただ、ヘラ引きで確認したインキで試作品のペンをつくって筆跡を確認すると、インキの面積が狭いので、筆跡の印象が暗く変わっちゃうんですよ。そのためヘラ引きしたサンプルの中から何色か選んで試作品のペンをつくって、最後の最後は印象や好みという感覚的な部分もあるので、みんなで選びましたね。

樫村ただ、これで完成ではないんです。ラボで研究していた100g程度のビーカーサイズから、生産ラインに乗せる容量を増やしていく必要があって。レシピはあるけれども、量産スケールに展開するために、一から工程を考える必要があるため難易度が高いんです。それを開発段階で新しく検討する必要がありました。

研究開発のキーワードともいうべき「隠蔽性」は、1983年にぺんてるが初めて発売したペンタッチ式の修正液にも欠かせない性能です。長年にわたって研究を続けてきた分野だからこそ、従来の技術や既存の原料に頼らずに作り上げたMATTEHOPの高隠蔽なインキには、並々ならぬ想いが込められているのです。

03転換期はマスキングテープ。まるで我が子のように大切に育て上げたインキ。

インキの研究開発における転換期はどこでしたか?

野口研究開発の当初は色をメインテーマにしていたので、私たちは黒い紙の上で鮮やかな色が出せれば良いっていうスタンスだったんですよ。けれども用途を考えたときに「マスキングテープに描けた方がいいよね」っていう話が出まして……。

髙井紙に描ける製品は飽和しているのと、表現を広げようというPentel Arts(ぺんてるアーツ)の活動を考えると、紙以外の非吸収面にも描けることで、表現やあそびの幅が広がるのではという構想もあり、マスキングテープにも描ける性能をお願いしました。

Pentel Artsとは?

野口性能をプラスするとなると新しい材料を検討する必要があるのですが、そうなると従来使っていた材料との相性が悪い。一箇所直したら次の不具合が起き、もう一個直しては……という状態だったので、研究が大変になった転換期はマスキングテープですね。

野口最初はどうしようか迷ったので、社内のレジェンド研究者に聞いてみたんですよね。すると「マステに描きたいなら、あの原料かな」と性能に対してパンッと答えを出してくれたんです。ただ最初の研究開発同様に製品としての品質を担保することが難しく、それからあーだこーだで……一年半かかりました。

倉賀野研究者目線からすると、マスキングテープに一筆目を描いたときにインキが乗るのかという不安や、もっとツルツルした上に描いたときに、どこまでの性能を担保させればいいのかというバランスに悩みましたよね。マスキングテープといっても色々あるじゃないですか。

野口数種類のマスキングテープを買ってきて、一番色が乗りにくかったものでも筆跡が見えるレベルは担保しようというところに落ち着きました。

そんな苦労の中から生まれた今回のインキは、皆さんの中ではどういう存在ですか?

野口一から育てて世に出すっていう製品は今回が初めてなんです。だから私の第一子です(笑)。

髙井しかも野口さんは品質保証部に異動したので、今度はMATTEHOPを守ることになるんです。自分が生み出した子の成長を自分で見守るみたいな。

樫村私は生産ラインや追加色の調合に携わったので、皆さんの第一子の育ての親ですね。

倉賀野私は入社以来ずっと修正液の研究をやってきたんですが、MATTEHOPでボールペンのインキ研究に異動したので、もう世界が全然違うんです。だから知識が追いつかなかったこともあり苦労はしたのですが、初めての製品が世に出るというのはうれしいですね。

野口修正液担当からやってきた倉賀野さんは、インキの隠蔽性を検討していく上での強力な助っ人でしたね。

髙井私はMATTEHOP以外の製品にも色々と携わっているので、その中で落ち込むこともたくさんあるんですよ。けれどもMATTEHOPのことを考えると元気になる(笑)。ちょっとふざけられる製品なので、あそびの延長で発想が広がり、コミュニケーションが広がっているっていうのを社内でも感じていますね。

野口私たちは今までにないものを作れたらいいよねという研究目線で始めたのですが、結果的に時代を先取るような研究ができたのは運が良かったですね。研究開発側の私たちの感覚としても「おもしろいな、かわいいな」と思っているので、同じような気持ちを皆さんにも持ってもらえたら嬉しいですね。

製品ターゲットはZ世代ですが、皆さんはどういった方に使っていただきたいですか?

倉賀野研究開発中は、そのあたりはあまり考えなかったですよね(笑)。

野口私はみんなに使ってほしい!アートやデコと聞くと、私自身は一歩引いちゃうタイプなんですが、MATTEHOPだと点々を描くだけでもかわいいんです。アートを作ろうではなく、このペンであそんでみようといった気持ちで色々なことに使ってもらえるといいなと思います。

全員 MATTEHOPPERじゃん(笑)。

野口例えばプラ板にも使ったり、試作段階で私たちもあそんだりしました。

プラ板での作品例  ※使用環境によって書きにくい場合や、定着しにくい場合などがございます。

倉賀野私も野口さん同様にアートが苦手なので、私たちみたいな初心者にもプロの方にも使ってほしいなぁと思います。あとはインキ面がプクプクと盛り上がるので、点字などのユニバーサルデザインにも応用できたらおもしろいですよね。

MATTEHOPで描いた点描画。指で触れるとインキが盛り上がって凸凹しているのがわかります。

樫村私は推し活ですね。MATTEHOPで手書きのファンレターを渡したら、普通のボールペンとは比べ物にならないほど素敵になるので、ぜひ使ってもらいたいなと。ちなみに私の推し色はイエローグリーンなんですが、ちょっとしたときにイエローグリーンを使うだけでも自分のアピールになるんです。

髙井ユーザーレポートでも、紙面ではなく自分の身の回りのものをデコレーションする方が多く、狙い通りだったなと。「ボールペン=紙」だとあそびが広がらないので、皆さんにはどんどん紙以外の素材にチャレンジしていって、友だち・家族などとのコミュニケ-ションツールとして親しんでほしいですね。

研究開発から発売まで約5年と聞くと長い気がしますが、ひとつずつの工程を聞くと決して長い歳月ではないこと、そして、皆さんのMATTEHOPに対する愛や熱量に圧倒されました。

ボーダレスな現在だからこそ、全世界で発売されるMATTEHOPを使って、描いて、あそんで、撮影して、投稿する。そんなSNSから発信されるおもしろいあそび方が世界中で見られるかもしれません。ぜひ皆さんも、素敵な作品や、おもしろい使い方をシェアしてください。お待ちしております!