ぺんてるモノ物語

知る人ぞ知るボールペン「エナージェル」 全世界累計出荷本数12億本以上のグローバルパワーブランド誕生の裏側に迫る

知る人ぞ知るボールペン「エナージェル」 全世界累計出荷本数12億本以上のグローバルパワーブランド誕生の裏側に迫る

ゲルインキボールペン「エナージェル」の発売20周年企画として登場した「限定20色」「限定ブラックカラーズコレクション」。先日開催したエナージェルユーザー4名による座談会の際にも、再販の要望が特に高かった製品です。そんな人気の限定企画の中から、グリーン・オレンジ・バーガンディ・ブルーブラック・フォレストグリーン・セピア・オリーブブラック・インディゴブラック・ボルドーブラックの全9色が、この度エナージェルの定番色に加わり、全12色で定番を展開することになりました。

発売から23年目を迎える今、なぜ新色を追加するのか。どんなコンセプトでエナージェルは開発されたのか。その答えを探るべく、開発初期から携わってきた面々を交えてお話を伺いました。

エナージェル担当メンバー

写真左から
・マーケティング担当/飯塚
・開発担当(チップ)/初谷
・開発担当(インキ)/大貫、佐藤

01サイン文化や左利きを徹底的に意識。筆記体が滑らかに書ける海外仕様のタフなペン。

世界120以上の国と地域で販売されるなど、ぺんてるの屋台骨を支えてきた“グローバルパワーブランド”であるエナージェル。国内では“ペン字に最適な製品”として密かな人気を誇るボールペンですが、その開発秘話を紐解くと、当初は日本語の文字書きを想定していなかった模様。なめらかな書き味かつ速乾性の高いゲルインキを追求した理由は、日本とは少し異なる海外らしい要望にありました。

エナージェルはどのような経緯で開発されたのですか?

佐藤このペンを知っていますか?「ボールPentel」という水性ボールペンなんですが、アメリカを中心にすごく売れたんですよ。いわゆる普通のボールペンしかなかった時代に、みずみずしく鮮明な発色で、世界中で大ヒットしたんです。

水性ボールペン「ボールPentel」

学校の先生が添削で使っていた記憶があります。懐かしい!

佐藤そうそう。けれども、だんだんと売り上げが落ちてきたのでリニューアルを……というのがエナージェルのはじまりでした。2000年から研究が始まったのですが、ボールPentelの後継とあって、非常に鮮やかな筆跡を出すことが重要コンセプトでしたね。

大貫当初から海外で販売するという話だったので、左利き用といったコンセプトもありました。

開発担当(インキ) 佐藤

佐藤国によっては左利きの比率が多いところもあるんです。しかも英語は左から右に書きますが、そうなるとインキが袖口を汚すというので、速乾性のあるインキを開発しようとなりました。なめらかで鮮やかにサインが筆記できるけれど、袖口にインキがつかない。この矛盾を、どう解消しようか悩みましたよね。

大貫それを解消したのが増粘剤です。ペンの中に入っている時にはゲル状で留まっているものの、筆記するときにはボールのところでかき混ぜられてサラサラの液体状になるんです。ただ当初はボールPentelの後継ということでペン先には樹脂チップを採用しようと思っていたのですが、このインキで種々の展開(ボール径・ノック式)を考慮すると金属チップも必要という話になり……。

エナージェルインキのイメージサンプル。一定時間動かさないと固体化し、振るとサラサラな液体状に変化。

佐藤チップに弾力性のある樹脂を使ったボールPentelは、書き味がスムーズなんですよ。そこもヒットの一因だったんですがね。

初谷しかも今のエナージェルはノック式がメインですが、ボールPentelの後継としてスタートしたので当初はキャップ式で開発を進めていたんですよ。

大貫けれども「ノック式にも展開しよう」「ボール径を増やそう」と、要望がどんどん膨らんでいったんですよね。

初谷そうそう。キャップ式と同時進行でノック式も開発することになったのですが、エナージェルのインキの特性上、ノック式だと漏れやすかったんです。チップ先端の金属は100分の1mmほどの厚みしかないので、ちょっと落としたり、ぶつけるだけでも密閉性が失われてインキが漏れ出てしまうんです。なので開発当初は出荷できるレベルじゃない状態でした。

開発担当(チップ) 初谷

佐藤インキ開発でもなるべく漏れないようにと、漏れ防止剤の役割を果たす新しい材料を試したりね。

初谷チップの設計思想自体は同じゲルインキボールペンであるハイブリッドと近いのですが、これまでの生産方法だとエナージェルのインキが使えないので、チップの組立機を全台改造しました。また、ボール表面には1nm(ナノメートル)単位で調整した非常に細かい凸凹を施しているのですが、そのボールの凹凸の中にインキが入り込んで薄い膜を作ることで、よりスムーズな書き味になるよう設計しています。

インキの良さを最大限生かすべくボール回転抵抗とインキ流路設計が最適化されたエナージェルインキ専用チップ

そうなると、インキ開発とチップ開発の連携が重要ですよね。

佐藤大体いつも喧嘩ですよ(笑)。

初谷製品の主役はインキなので、ある程度インキの完成が見えたらチップの設計に取り掛かるのですが、お互いにできること、できないことがあるので、そこは補完し合いながら“仲良く”やってきました(笑)。

大貫初谷さん、上手くまとめましたね(笑)。

筆記体でサラサラとサインを書く欧米をターゲットに、ボールPentelの後継品として開発が進められたエナージェル。当時の日本ではハイブリッドが大ヒットしていたこともあり国内市場は二の次でしたが、そのような市場環境だったからこそ今のエナージェルが生まれたと言えるのかもしれません。

02「逆輸入×器用さ」の相乗効果から生まれた!? 日本語の文字書きに最適なエナージェル。

発売後の反響はどうでしたか?

佐藤デビューしてから金属チップの腐食という大きな問題が起こってしまったんですよ。
しかも東南アジアや中東などの湿度が高く暑い地域だと、余計にサビるスピードが早い。

初谷だからエナージェルならではの書き味は出せないけれども、腐食を防ぐために泣く泣く高額なボールを採用したこともありましたよね。

佐藤原価は4倍近く高価なのに書き味は良くないという(笑)。

国内での反応はどうでしたか?

佐藤この頃はまだ日本では発売されていなかったような。

初谷当初は海外展開のみで、2003年に国内販売を開始したんです。

飯塚最初は逆輸入というか、海外からやってきた日本製品にはないタフなイメージで売り出しました。その後キャップ式の「エナージェル ユーロ」を履歴書に最適な“就活ペン”として売り出したことで知名度は上がりましたが、まだまだ知る人ぞ知る存在。もっと知っていただきたいです。

“就活ペン”として知名度が高まった「エナージェル ユーロ」

佐藤インキの吐出が多く、減りが早いので、少しでも長く使っていただけるようにリフィルを太くしています。また、手が大きい人が使うことを想定している海外仕様をそのまま国内で発売しているので、ボディも太いんですよ。

飯塚でも結果的にこの太さが、文字が書きやすい太さでもあるんですよね。あとアメリカでは添削のときに紫を使うので、定番カラーに紫が入っていて、黒、赤、青、緑と同じくらい紫が売れているんです。

佐藤日本だと黒・赤・青が定番ですが、海外だと黒の次に売れているのは青ですから。

開発担当(インキ) 大貫

大貫以前、色味ごとにまちまちになっていた成分の組成を一致させるモジュール化の設計を1年かけて行ったおかげで、「ブラックカラーズコレクション」などの新色も短期間で作れるようになったんです。

飯塚最近になり、国内と海外で同じような色味を出していこうという話になりました。国内の場合カラフルな色は限定品だったのですが、海外だと実はそれが定番色だったり。「エナージェル インフリー」も、実はラフグレー以外は元々海外で販売されていた色味なんです。

佐藤今回の国内での新定番色も海外や限定での人気色を集結させた感じだよね。

マーケティング担当 飯塚

飯塚そうですね。あとは既存シリーズとのバランスもみて検討していきました。インフリーは「アイデアツール」として少し個性的なカラーバリエ―ションになっているので、同じような色を選んだところで「どっちを買えばいいの?」となってしまうなと。そこで、今回はエナージェルの売りの1つである文字が綺麗に書けるという点に着目し、「文字書き」に最適な色味を中心に選定しました。

佐藤でも当初の設計から考えると、エナージェルは日本語の文字書き向きとしては想定していませんでした。

初谷そうそう。サイン文化に特化した製品を考えていましたからね。

佐藤日本語は“とめ・はね・はらい”が必要ですが、エナージェルはインキが滑りすぎるから自分でとめる必要があるんです。ただ、そこを上手く使いこなす日本人の器用な部分とエナージェルのなめらかなインキが、たまたま文字書きと親和していったのかなと。

飯塚座談会 に参加された方たちは”とめ・はね・はらい”をエナージェルで上手に表現していましたよね。あとは皆さんが0.7mmのボール径を使っていて、それを評価してくれたことも嬉しかったです。

初谷設計開発では0.7mmを基本指針として進めてきましたからね。

飯塚売れ筋は0.5mmや0.4mmですが、やっぱりエナージェルの一番良い書き味を楽しめるのが0.7mmだと思うんです。そのため、今回の新色も0.5mmと0.7mmのラインナップにしたので、ぜひ書き味を楽しんでもらいたいです。

初谷エナージェルではボールの可動範囲を少し大きめにしています。筆圧を弱めれば、その分インキの吐出を抑えられるシビアな設計になっているので、筆跡の強弱がつけやすいんでしょうね。

佐藤皆さん筆圧を上手く調節しているんだと思います。書いた手応えが感じられるから字が上手に書けるんじゃないかな。

飯塚発色が良いところも綺麗に見えるポイントですよね。

ペン字のプロも愛用する“自分比、いい文字”が書けるエナージェルですが、開発秘話を遡ると文字書きに適したペンというのは偶然の産物だったことがわかります。ただ、おもしろいことに、ボディの太さもインキの設計も全てがペン字向き。海外をターゲットにしたからこそ、図らずも世界標準となるような書き味が生まれたのかもしれません。

03エナージェルといえばコレ!世界の共通認識を目指す変わらないデザイン

今後はエナージェルをどんな方に使ってもらいたいですか?

飯塚大人になればなるほどボールペンを買い換える機会はなくなり、なんとなく家や会社にあるものを使っているという人も多いと思うんですが、そういう人たちの“生涯これ1本で済ませてもいい”というくらいの製品になりたいです。

初谷同じく。ボールペンなら何でもいいっていう人ほど、使ってもらえれば違いが分かると思うんですよね。そのためにも、どこででも手に入るようにしていく必要があります。

佐藤お世話になっている人にプレゼントをすると「あのペンよかったです」って言ってもらえるんですけど、替芯を売っているところがまだまだ少ないので、もっと知名度を上げていきたいです。

飯塚国別の売上本数で見ると日本は2位ですが、世界シェアで見ると1割程度ですからね。最近はコンビニなどでも気軽に手に入るようになりましたが、ようやくという感じです。

大貫エナージェルの中でも1.0mmや0.7mmは書いた瞬間に「おっ!なんだこれは!?」ってなると思うんですよ。軽い力で文字が書き続けられるのはもちろん、絵を描くこともできますし、今回定番色も増えたので、もっと遊んでほしいですよね。

04ぺんてるにとって、エナージェルはどんなブランドですか?

飯塚エナージェルの全世界での成長は、社内の最重要課題です。「エナージェル=グローバルパワーブランド」ですからね。

初谷それに尽きます。20年かけて、ようやくここまできたなと。

大貫研究開発期間が短い中、開発や製造などさまざまな社員と協力し、その後も品質向上、多色展開、コストダウン、販売等などを重ね、製品の成長に繋がっていると感じています。

飯塚座談会では「スタンダードモデル(シルバー軸)のデザイン」の好みのお話も出ましたが「これぞ世界で売れているエナージェルだ!」と、今後は国内でも強く打ち出していきたいですね。

佐藤私は開発者冥利に尽きますよ。コンビニで見かけたら、商品を前に出すようにしていますからね(笑)。

飯塚私もです(笑)。そういえば前々から疑問に思っていたのですが、他のペンはインキがなくなりそうになると掠れてしまうこともありますが、エナージェルって最後まで書けますよね。

佐藤それは「グリス」というボールペン替芯(リフィル)の後端部分に入っている透明な部分の力ですね。グリスはインキ洩れや乾燥の防止、減ったインキを下に掻き落とす役割があるんですが、エナージェルではエナージェル専用のグリスを開発しているんです。インキがなくなりそうになると色が薄くなったり掠れてくると感じるのは、このグリスとインキが混ざってしまっているからなんですね。エナージェルは最後までインキとグリスが混ざらないから、終わりまではっきりと書けるんです。使い終わったリフィルを見ると、多分透明なグリスだけが残ってますよ。グリスは縁の下の力持ちです。

最後まではっきり書けるのを支えるエナージェル専用グリス

文字書きに適した色味を中心に、要望の多かったグリーンやオレンジなどが定番色に加わったエナージェル。定番色は国ごとに異なるものの、エナージェルの持つ唯一無二の書き味は、いつの時代もどこの国でも変わりません。字に自信がない方も、左利きでお困りの方も。エナージェルを使えば、手書きの文字がこれまで以上に好きになるはずです。