表現する人々

世界を驚かせた「おじいちゃん先生」が教える、表現の楽しさ。水彩画講師・柴崎春通さん

世界を驚かせた「おじいちゃん先生」が教える、表現の楽しさ。水彩画講師・柴崎春通さん

01290万回超再生!目からウロコの「身近な画材×画家の本気」動画

突然ですがこちらの絵、何をつかって描かれたものだと思いますか?

  • ヒント1 油絵の具で描いたように見えますが使った画材は油絵の具ではありません。
  • ヒント2 誰もが一度は手にしたことがある、ごくごく身近な画材です。

答えはクレヨン。しかも他の画材は一切不使用、純度100%のクレヨン画です。
「え!」と思った方は、同じくクレヨンで描かれた別の作品の制作過程を映したこちらの動画をご覧いただくと、さらに驚かれるはず。

「ぺんてるクレヨンをプロの画家が使い倒すとどうなるか?! 柴崎 水彩画家」

作者の水彩画講師・柴崎春通さんは、「おじいちゃん先生」と親しまれる大人気の美術系YouTuber。ときに絵を描く心得や基本の「キ」など、プロだからこその技術を優しく紐解き、ときにメーカーへの忖度なしに画材をレビューし、ときに視聴者から寄せられた作品を添削。そんな自由なアプローチと温かくユーモアに満ちた語り口で、あらゆる角度から「描く面白さ」を伝えてくれる動画は国内外にファンをもち、チャンネル登録者数はなんと100万人超え!上記の動画の再生回数は驚きの290万回以上(2022年3月時点)、さらに今も伸び続けています。

02なぜ、クレヨンで描くことに?

柴崎さん「年齢も美術経験も異なる人たちが見てくれていますから、誰にとっても身近な画材をと、なんの気無しにぺんてるクレヨンのレビュー動画をあげたんです。学校でよく使われている王道の画材だしお値段も数百円と、ぐっとお手頃。それなのに“意外と”なんて言っちゃうと失礼だけど(笑)、想像以上に品質が良くて、レビューしていても簡単な絵を描いても楽しかったんです。そしたら『クレヨンを使って、本気で描いてほしい』と視聴者からリクエストがきて、好奇心から少女の絵を描いてその制作風景を動画にしたら、世界各国からものすごい反響をいただいて。びっくりするやら、うれしいやらです」

クレヨン以外の画材も普段から使用。なんでもまずは“試してみる”とのこと

一般的に、小学生や小さな子どもたちが使うことから、クレヨンは重ね塗りができるように設計されています。初心者には易しいが表現力は限定的と思われがちなクレヨン。ですが真っ白な画用紙から少女の絵が完成するまでを映した柴崎さんの動画を見れば、まさに目からウロコ。光、透明感、奥行き……クレヨンが実は油絵の具にも負けない表現力をもった画材であることに初めて気づかされ、動画のコメント欄も世界各国からの絶賛と驚きで溢れていました。

他にもクレヨンだけで描いたこんな作品も。近づいて見ても、まるでクレヨンだとわかりません…

03心からもウロコがポロリ。「あたりまえ」からの脱却で世界は広がる。

「もともと型にはまるのが好きじゃない性格なんです」と、飄々と話すとおり、クレヨンや専門である透明水彩絵の具の他にも、色鉛筆やマーカーと手に取る画材はバリエーション豊か。さっと定規やティッシュを手に取って使ったり、指でゴシゴシこすったり。例の動画で使用した紙はなんと水彩画用スケッチブックの裏表紙!

柴崎さんの真骨頂ともいえる柔軟な姿勢と伸びやかな心は若い頃から変わりません。

アトリエには数々の画材。そのほかご自身で改造(?)した見慣れぬ道具もありました

柴崎さん「大学では油絵を専攻、卒業後は教授からの推薦で、アメリカで創設された通信制の美術学校講談社フェーマススクール(フェイマス・アーティスツ・スクール)の日本校で講師を務めていました。油絵の授業担当だったんですが、ある時アメリカ人講師の水彩画を見て衝撃を受けたんですよ。当時の日本の美術界では、技術的・表現的に水彩画より油絵が格上という風潮があったんだけれど、彼の水彩画の表現は、そんな日本美術界の常識が一瞬でひっくり返っちゃうぐらい実に豊かだったのね。目も心も開かされる、そんな体験でした」

それから自分も描きたいと水彩画を学び、透明水彩画家として水彩の授業を担当するまでに。その後も、たとえば人物、風景と得意なモチーフばかりを描く人も多いなか、「なんでも」の精神でどんどん筆を走らせたら、描く喜び、そして自分の世界がどんどん広がっていったそう。

「ジャンルの枠を取り払って、なんでも描けるってこんなに面白いのかと、夢中になりました」という柴崎さん。手の動くまま、心の動くまま。まっさらな心で描きたいものを、描きたい画法・画材で描くのが柴崎流。

柴崎さん「思いつきでやるから楽しいんですよ。同じ美術畑の親切な人は、スタイルを決めたほうがいい、なんてアドバイスをくれたりするんですが、そんなやり方は僕にはまったく合わない (笑)。先入観で凝り固まっちゃうと何かを見落とすし、それは可能性を閉ざすことになるんじゃないかなぁ」。

「ちなみにメーカーさんもね…」と柴崎さん。「たとえばクレヨンはお子さん用のモノだなんて自分たちで決めつけてたりしませんか? クレヨンには油絵に匹敵するぐらい可能性があるなんてこと、もしかすると、ぺんてるさん自身が気づいていなかったりするんじゃないですか」と、インタビューに同席していた社員に向けて、思わずドキッとする問いかけも。「なーんて、人に言われてもピンとこないんだよね。殻や先入観を破るってむずかしいから。まずは自分で描いてみて、手応えや楽しさを感じて!」といたずらっ子のように笑います。

04描きたい気持ちがうまれたら、それは、人生が楽しくなるチャンス。

柴崎さん「たとえばおしゃべりした言葉なんかはどんどん消えていくけど、絵って、手を動かすと刻一刻と変化しながら目の前に形となって現れるでしょう? 思ったように描けないなぁとか、今日はここまでしかできなくて悔しいとか、昨日よりちょっとうまく描けてうれしいとか、すべて形で残る。今の自分がそのままそこにいるんですよ。他人と比べてどうといったことではなく、自分と向き合う、自分との真剣勝負が絵の魅力。それになんといっても楽しいですよ、描くことは」

70歳を超えた今も、さて今日はどんな風に何を描こう?と、ウズウズする気持ちは大きくなるばかりだという柴崎さん。手と心を動かした先に広く豊かな世界が広がっていることを、描き続けるその姿で示し続けてくれています。

「これからの絵の目標? そんなのないない(笑)。描きたいものを、描きたいように描く、それが一番好きなんですよ。心の声に耳を傾けて、目と心をしっかり開いて描き続けていれば、また新しい何かが見えてくるでしょう」。

それに、いつもこう思ってるの、と茶目っ気たっぷりに続けます。

「明日描くものが一番の傑作!」。

動画を介して柴崎さんが抱くワクワクする気持ちが伝わり、自分の中にはないと思っていた絵心がポッと出てくる感覚を味わう人もたくさん。「子どもの頃におじいちゃん先生と出会っていたら、絵に苦手意識を抱くこともなく、人生が違っていたかも」…というコメントに、柴崎さんはこう諭します。

柴崎さん「何をおっしゃいますか、絵はいつだって、どこだって、誰だって、描けるからいいんじゃないですか。思い立ったが吉日ですよ。描きたいと思ったその時がチャンス。明日でも明後日でもなく、今この瞬間に、なんでも良いから描いてみてほしいと思いますね。ぜひ!」

「ぺんてるクレヨンで真っ赤なりんごを立体的に描いてみた!」

表現したいと思ったその時に…。内から湧いてくるワクワクを見つけて、みなさんも表現する楽しさを体験してみませんか?描くコツがぎゅーっと凝縮された動画を見て、おじいちゃん先生と一緒に描けば、思いがけない発見がたくさんあるはず。

表現することで、新たな自分の興味の種が花開くなど、ぜひ、「目から、心からウロコ」を楽しんでください。

柴崎 春通(しばさき はるみち)

水彩画講師
1947年 千葉県生まれ。
1970年 和光大学芸術学科卒。荻太郎、中根寛に師事。
2001年 文化庁派遣芸術家在外研究員としてアメリカに渡り、アート・スチューデンツ・オブ・ニューヨークで研究を行う。
2017年 YouTubeにて「水彩チャンネル」をスタートさせ、新しい表現の楽しさを世界中に発信している。

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