表現する人々
道なき道を切り拓く、「グラフ600」を握りしめ世界のアートシーンへ。 アーティスト・田村大さん
圧倒的な躍動感と生き生きとしたリアリティにあふれた人物画で、鮮烈な存在感を放っているアーティスト・田村大さん。
国民的イベントとなったWBC(ワールド ベースボール クラシック)のビジュアル制作をはじめ、著名人や各企業とのコラボレーション、さらには人気テレビ番組のキーアート制作と、田村さんの作品を目にする機会は日に日に増えています。
フォロワー数10万人以上の田村さんのインスタグラムには、精緻に描きあげられた作品の数々が。これが手描き!?と思わず二度見、いや三度見していると…そこに写っているのは、なにやら見覚えのあるモノ。これは、もしや、いえ、確実にぺんてるのあの製品では……?
お話をうかがうと、田村さんの作品とぺんてるとの深い関係が見えてきたのでした。
01堂々と、こっそりと。作品に寄り添うぺんてるのペンたち
みなさま、まずはこちらの作品をじーっとご覧ください。
実は、この作品に使われているぺんてるの製品は2本。さて、おわかりでしょうか?
はい、一本目は聞くまでもありませんね、右下(写真の位置)にキラリと光るペン先が堂々と写っていますから。
「グラフ600です。絵の下描きにシャープペンシルを使うのですが、2017〜18年頃に買って以来ずっとこれ一本で描いています。選んだ理由は単純に“かっこいい!” (笑)。どこかの店で目にして 白×シルバーの色、フォルムが気に入りました。
もちろん、書き味や手のなじみもいいんですけど、とにかく下絵はずっとこれです」
迫ってくるような画力で、息遣いや体温、アスリートがもつエネルギーにあふれ、思わず見入ってしまう引力を持つ田村さんの絵。
“少年漫画のヒーローが、必殺技を決める瞬間”をイメージして描くアスリートの絵は、写真より、映像より、そのアスリートが放つ魅力を一瞬で伝えています。
非常に精緻な筆致の絵は、なんと、描き直しなしの一本勝負!
実はその絵を左右する非常に大事な役割を担っているのが、グラフ600だというのです。
「構図、ポーズ、位置をさっと描くのですが、僕の絵は下描きがすべて。下描きが失敗すると、その絵は頑張ってもなかなかよくならないんです」
そして、田村さんの絵に欠かせないというもう一本のペンとは?
どの作品にも必ずと言っていいほどある「DT」という田村さんのロゴ印の下に手描き文字の「Dai」というサイン。実はこれを描いているペンが、何を隠そうぺんてる製品の「プラマン」なのです。
「実はこのペン、ぺんてるさんのものとは思ってもいなくて。今回はじめて知りました(笑)。サインを描くのは必ずこのペンですね。握った時の角度によって一本で細い、太いが描き分けられるところがすごく好き」
サインにももちろん、絵を描く時にも使うというプラマン。時折、力の加減でインクが弾けたり、思わぬ強弱が出たり、それも味わいにつながるという。
作品投稿のほとんどに映るグラフ600とプラマンで描いたサイン。
絵の魅力を多くの人に伝えるために、発信の場として大事にしているSNSに、これほど載せていただいているとはとても光栄です!
「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます。僕ら絵描きはペンがないと何もできませんから(笑)。助けられているのは僕のほうです」
そんなふうに笑顔を見せる田村さんですが、作品投稿にペン先を写す理由は実はほかにも。一見写真のように見えてしまう自身の作品に対して『手で描いているんだ』という強いメッセージを伝える意図もあり、投稿時にペンを横に添えているそう。優しげな印象とは裏腹に、自身の作品とそれを世界へ向けて発信する熱量の高さを感じます。
02まわり道が鍛えた、最高峰への突進力
絵とスポーツ。このふたつが子どもの頃から大好き、かつ、大の得意分野だった田村さん。
2018年からアーティストとして歩み始めると、同年にNBA公式アーティストに抜擢され、
あれよあれよとメディアや広告などでもひっぱりだこに。
そう聞くと、才能を武器にまっすぐアートの世界を歩いてきたように感じられますが、その歩みは決して一足飛びではありません。
バスケットボールに大学まで打ち込んだ後に、専門学校に入学し直して絵とデザインを学び、スポーツメーカーのデザイナーと似顔絵会社勤務を約10年経験。
2017年には似顔絵の世界大会「ISCAカリカチュア世界大会」で優勝。
アスリートやスポーツの絵を存分に描くために独立したのが田村さん30代半ばの2018年のこと。決して早いとは言えないデビューからの破竹の勢いの活躍に、驚かされるばかりです。
「似顔絵の世界大会で優勝したといっても世間ではまったく無名の存在です。絵で食べていきたい人も、スポーツの絵を描きたい人も世の中にたくさんいるから、下から一歩ずつ上がっていこうとするとライバルが多くて埋もれてしまう。
だからひとつ仮説を立てたんです。最初から一番大きな目標を立てて、いきなりそこに挑戦すれば、意外とライバルが少ないのではって」
田村さんにとっての高く大きな目標。
それは、バスケットボールの最高峰・NBAの仕事を勝ち取ること。
最終目標にNBAをあげる人はいても、スタート目標にしてしまう大胆な人は、なかなかいません。ですが、田村さんは、なんと本当にその目標を実現。
その達成のきっかけも意外で…。
「楽天の三木谷社長のお誕生日に、三木谷さんの似顔絵をインスタに投稿したんです」
NBAの日本のオフィシャルパートナーは楽天。“一番上から攻める”の仮説どおり、大胆にもトップである三木谷さんへのアプローチを試みたそう。
「運良く三木谷さんが僕の絵に目を留めてくださって、僕のアカウントをフォローしてくれたんです。すかさず『NBAの絵を描きたいと思っています』とメッセージを送ったら、なんとNBAの関係者の方を紹介してくれたんです」
NBAとの仕事のきっかけとなった投稿。
まるで作り話のような本当の話。
ですがそれは、田村さんの絵が持つ独自の魅力と、目標を達成するための戦略的なアプローチ、そして具体的に行動する熱量があったからにほかなりません。
上級生が描く上手いドラゴンボールの絵に憧れた少年時代。
バスケットボールに打ち込み、スポーツエリートが集まる学校で、人生初の控え選手となった悔しさを経験した高校時代。
このまま普通に就職して仕事の合間に絵を描く人生は嫌だと、大学卒業後にデザイン専門学校へ入学した遅いスタート。
スピード・画力・着眼点が求められる似顔絵師として3万人の顔を描き、世界一になるために、毎日10時間以上描き続けて「自分が世界で一番描いた」という確信。
世界一となった後も、無名アーティストへの厳しい現実に向き合った日々。
数えきれないほどの紆余曲折の時間が血肉となって、描いていた絵が、観る人の心を動かし、人生を動かしたのです。
「毎回ゼロベースで新しいことを始めて、道なき道を必死でかき分けて進んでいるような人生で、日々戦ってきたような感じでいます。遠回りに思われるかもしれませんけど、振り返るとすべてが今の自分を作ってくれているんですよね。いわゆる“普通”の人生を歩んできて、いろんな人と接してきたから世間の一般的な感覚や絵を観る側の気持ちもよくわかります。だから、全部必要な経験だったと思っています」
恵まれた才能と高い画力に加えて、適切な分析力、戦略を練る頭脳、黙々と努力を続ける根性、大胆な行動力。
アーティストとアスリートのハイブリッド、それが田村さんを独自の存在たらしめている理由なのかもしれません。
03一枚入魂。120%の力で描き、自己ベストを更新していく
表現し続ける日々、心がけている姿勢は自己ベストの更新だと言います。
「絵を描くことは好きとか、楽しいだけじゃなくて、毎回勝負だと思っています。自分に打ち勝てるか、みたいなことを考えながら描いています。人に対しても自分に対しても、120%の力を出し切ったと偽りなく言える絵にしたいんです。だから必ず自分が本当にいいと思った絵、納得した絵に仕上げる。そこは絶対にブレません」
唯一無二の作品を、持てる力すべてを注いで描きあげる田村さんの作品を求めるオファーは全国津々浦々から、そして世界から。
企業や田村大というアーティストに惚れ込んでの依頼もあれば、田村さんの絵に強く惹かれ、InstagramのDMで問い合わせをくれる人も。なんと、描きあげた絵は、多忙な日々の中自らの手で届けにいっているのだそうです。
「相手の方にはとても驚かれますよね(笑)。もちろん送れば簡単なんです。でも精魂込めた絵ですし、絵を依頼してくれた感謝の想いも伝えたくて、手渡しというところにはこだわり続けています。
毎回『これ以上はない』というほど自信をもって完成させています。でも、手渡しはダイレクトに反応が見えますから毎回ものすごくドキドキ。120%の自信と、不安が共存していますね」
だからこそ、渡した相手がよろこんでくれた瞬間には、自分の表現するよろこびも爆発する。
アスリートや著名人たちのSNSにも、田村さんが描いた自身の絵と並んでこの上なく嬉しそうな表情で写った写真がたくさん。かけがえのない一枚を受け取った嬉しさが弾けています。
「一瞬でもそういうよろこびを感じられるからこそ、また次の絵に向き合えるんだと思います」
04アートへの挑戦の先に、次の未来が見えてくる
田村さんが描く世界は今やアスリートだけにとどまりません。
「刺激を受けたもの、興味を感じるものには挑戦したいし、そうしてきました。似顔絵で世界一を獲ったんだから似顔絵を続ければ?得意なアスリートの絵を描き続ければ?新しいチャレンジをするたびに、周りからそんなことを言われてきましたが、これでいいんだと、迷いはありませんでした。
チャレンジすることで新しい知識が入ってきて、できなかったことができるようになり、描けなかったものが描けるようになる。そこによろこびを感じるんです」
現在は人物画だけでなく、動物や生物、車を描いたオリジナルアートにも挑み、これまでに二度の個展を開くなど、フィールドは広がり続ける一方です。
田村さん、次の目標はなんですか?
「ふたつありまして、ひとつはNYで個展を開くこと。もうひとつはアーティスト田村大といえばこれ、という核を見つけること。タッチで僕の作品とわかってくれる人はいるでしょうけれど、たとえば村上隆さんや草間彌生さんのように、独自のモチーフや世界観、“これが田村大”といえるものを見つけたいです。そのふたつの目標はつながっているでしょうから頑張ります」
その挑戦のそばには、ぜひグラフ600とプラマンを寄り添わせてください!
……と言いつつ、すみません、実はそのグラフ600は生産終了品なんです。
「え、そうなんですか! ? 僕、本当にこれ一本しか持っていないから、大切にしなくちゃいけませんね」
そこで、ぺんてるの製図用シャープペンを試していただいたところ、
「グラフ600に何かあれば、この中から使いますから大丈夫。ぺんてるのシャープペンを使い続けます(笑)」
取材スタッフ所持のグラフ600が、15年近く故障もなく活躍していることを伝えると、「じゃあ、まだまだ大丈夫ですね!」と笑顔が大きくなった田村さん。
次の目標、そしてその次の目標、次の次の目標……きっと次々とクリアしていくであろう田村さん。
そんな田村さんにグラフ600がどれだけ寄り添い続けられるか。
みなさんも、ぜひ、Instagramに映るペン先を追いかけてみてください。
田村 大(たむら だい)
東京都・八王子市出身。2018年にアーティスト活動をスタート。同年にNBAオフィシャルアーティストに選ばれ、その後、WBC、Bリーグ、Vリーグなどスポーツ界の第一線で数々のイラスト作品を発表。鼓動やエネルギーまで感じるような躍動感溢れる人物画が人々の心を掴み、スポーツジャンルを超えて著名人や企業とのコラボも多数。自身の作品を多数掲載するInstagramは世界中から熱視線が注がれておりフォロワーは10万人以上。