ぺんてるの山田です
文具メーカー社員は何本のペンを持っているのか?〜家のペン全部出してみた〜

こんにちは、ぺんてるの山田です。
確かに持っていたはずの何かが、探しても探しても、どうしても見つからない、ということがあります。別に、幼い頃の夢とか、若き日の希望とか、そういうものではなく、もっと物理的な話です。私の場合、学生時代に愛用していたサイドノック式シャープペンのドットイー・ティントがそうで、noteに思いの丈を綴ってから4年経っても、まだ見つかっていません。
それはもう、「持っていない」ということになるのかもしれませんが、実際に手に取ったり目にしたりできるかどうかは、正直いって、私にはあまり重要ではなかったりします。「ある」と信じることができれば、それはもう、「ある」のと同じです。
昔から、買っただけで満足するタイプだったということもあります。使うことよりも、保有することのほうが重要に思うし、なんなら、購入した貴重な限定品やら、懸賞で当てた非売品やらを、届いた箱のまま開封せずに、大切にしまいこむことに価値を感じる人間です。
もしかしたら、箱の中身は、違うものかもしれない。空っぽかもしれない。しかし、それを確かめる必要はないのです。自分が、その中にそれがあると信じてさえいれば。誰に見せて、証明する必要もないのですから。
これはなかなか理解され難い性質で、私が実家で大事にとっておいた、傍目には何の変哲もない宅配の段ボール箱が、いつの間にか開封され資源回収に出されていたときには、ひとり涙したものです。
とはいえ、生きる上では、自分の持ち物を把握しておくことは大切です。いざ必要になったときに、確かにどこかにあるはずなんだけど、では通用しません。
そんなわけで、今回はいつもと少し趣向を変えて、「やってみた」企画に挑戦したいと思います。
01ペン、何本持ってる?
ふと、自分はどれだけの筆記具を持っているのかと、気になった。職場のデスクの引き出しには、もちろん所狭しとペン類が林立しているが、それは業務上当然のこととして、それ以外、たとえば鞄に入れて持ち歩いているものや、自宅で保有しているものについてである。
これまでに、改めて数えてみたことはない。収納場所の容量からして、だいたいこれくらいのスペースを占めるくらいの物量だということはおおまかに把握しているが、それが何本、何十本にあたるのかは、皆目見当がつかない。「なんかわからんけど、たくさんある気がする」くらいの、ぼんやりとした解像度だ。
容積はわかっても、数量はわからない。ペンに限らず、書籍にしろ、衣服にしろ、よほど持ち物にこだわりがない限り、そんなものではないだろうか。例外は、預金残高くらいのものだ。
しかし、もしかしたら世間一般のメーカー社員は自社製品というものに強いこだわりがあって、自分の保有する数量をしっかりと把握しているのが常識なのかもしれず、そうなると、ここで私が特に筆記具にこだわりがない人間であるということが明らかになってしまうのは、今後のキャリアにネガティブな影響を及ぼさないとも限らない。ということで、家の掃除もかねて、一度数えてみることにした。
やはり、仮にも文具メーカー社員なのだから、持っているペンは普通より多いのだろうか。それとも、人間が一生に使える筆記具の本数には限界がある以上、それほどでもないのだろうか。
まずは、整理整頓の基本、家にあるペン類を全部出してみた。ペン立ての中のもの、引き出しの中のもの、棚の上の箱の中に入っていたもの、袋に詰められていたもの、すべてを集約した。
その結果がこれである。

早くも「やるんじゃなかった」という気持ちが芽生えてくる。
なんであれ、後先考えずに広げるのは簡単だが、うまく畳むのは難しいものだ。私はいつも、衣替えのとき、ビフォーアフターで全体の物量は変わっていないはずなのに、なぜか収納に収まりきらないものが出てきて困惑している。きっと、クローゼットの時空が歪んでいるのだろう。
どうするんだこれ、という冷静な声がどこからか聞こえるが、広げてしまったものは仕方がない。やるしかないと、覚悟を決める。
始めるにあたって、参考までに、私の基本スペックは次の通りである。
- ぺんてる勤続15年
- 二人暮らし
- 絵や字を書く趣味はない
また、社員ではあるが、「文具コレクターではない」というのも重要な点だ。世の中には、あらゆる文具を収集し、しっかりと分類して保存管理している人々もいるが、私はコレクターではない。かつては切手やトレーディングカードといったものを熱心に収集していた時期もあったが、誰もが通る道であろう。同じシャープペンを色違いで何本も集めるような活動に勤しんではいない(勤しんでいる社員もいる)。私は一般人として、それらを嗜む人々のコレクションを見ては、驚嘆するばかりである。
というわけで、家にあるのは、日常使いのもの、なんとなく集まってきたもの、思い出の品、などである。10年以上、メーカー社員をやっていると、さまざまな機会にサンプルをもらうなどして、自社製品の手持ちが増えていく。布教をかねて身内に譲るなどもしているが、手元に残しておく分もそれなりにある。どうせそんなに使いきれないとわかっていても、なかなかに手放し難い。それは、いち個人として本当に気に入っているということでもあるし、多少なりとも自分の関わった製品に対する思い入れでもある。
特に、限定品や廃番になってしまったものなどは、手放したらもう巡り会うことはないと思うと、私が保存しておかなくては、という使命感に駆られたりする。いつなんどき、メディアの取材で廃番シャープペンの実物を撮影したいと要請されないとも限らないのだ。こうして、使うあてのない保管品が増えていく。
そんな関係上、今回登場する製品は、現在は国内で販売していない廃番品も多く含まれる。もう手に入らないものについて、こうしてWebで話題に出すのはいかがなものかと言われるかもしれないが、だからといって、ぴかぴかの現行品しか載せないというのでは、やらせになってしまう。
廃番になったからといって、すでに手元にあるものはあるのだし、じゃあ手放そう、となるものではない。むしろ、なら大事にとっておこう、となるものではないか。そして、たいていの場合、出たばかりの新製品よりも、長年苦楽をともにしてきて、ついに廃番となった製品のほうが、多くの思い出があり、そのぶん愛着を覚えるものだ。
そういうわけで、今回は普通に廃番品も出てくるし、なんなら他社製品も混じっている。これもまた、違った方面からお叱りを受けそうではあるが、リアリティを追求したものである。メーカー社員だからといって、自社製品しか使わないということはなく、研究のため、あるいは個人的な好みとして、他社製品も普通に使う。そのほうが視野も広がり、生産性も上がるというものだ。
以前からこの連載をお読みの方はご存知のとおり、ここは宣伝や販売促進の場ではない。そのつもりで読んでいただけると嬉しい。
02家のペン全部出して数えてみた
ここからは、カテゴリごとに詳細を見ていきたい。分類は、ぺんてるコーポレートサイトの商品ページに準じたものである。はたして、どのカテゴリのペンを何本くらい所有しているのだろうか。
なお、当社では通常、ボールペンやシャープペンは「本」、シャープペン替芯やブロック消しゴムは「個」と数えるが、ここでは統一して「本」と表現させていただく。また、ぺんてるといえばえのぐ・クレヨンというイメージもあろうが、たとえば「ぺんてるくれよん 16色セット」だったら1個と数えるか、クレヨン単色16本と数えるかでだいぶ結果が変わりそうであるし、今回は「家のペン全部出してみた」という企画なので、画材はカウントしていない。まあ、ペンほどには持っていないはずだ。たぶん。
ボールペン
全体写真からもそんな予感はしていたが、めちゃくちゃあった。通常使用であれば、万一の故障やインキ切れに備えたとしても、絶対にこの本数は必要ない。「同じ用途のものは複数持たない」などをルールとして掲げる、整理整頓のプロに見られたら何と言われるか、おそろしい。
1枚では収まりきらないので、何枚かの画像に分けて見ていくとする。

エナージェル、エナージェル エス、エナージェル フィログラフィ、エナージェル クレナ、エナージェル エックス、エナージェル インフリー
大部分を占めていたのが、エナージェルシリーズ。私が唯一まともな字を書けるボールペンであり、油性と指定されない限りはいかなる場合も使っているので、それなりに数はあるだろうなとは思っていたが、こんなにあるとは思わなかった。たぶん、社内でサンプルをもらえる機会があるたびによろこんで馳せ参じているうちに、ここまで増えたのだろう。

ボディデザインはさまざまであるが、よく使うのは透明軸のエナージェル インフリー。シンプルな見た目で、内蔵する色つきの替芯パイプとインキの透け感は、厚手のガラス瓶に入ったカラーインキを思わせて美しい。これは、もともとエナージェルの替芯が大容量・太めであるからこそ成立するバランスであって、もっと細い替芯であったなら、とたんによくある事務用品のような見た目になってしまうことだろう。
インキ色は、ブラックを基本として、ブルー、ブルーブラック、ラフグレーあたりを文字書き用に、また、ターコイズブルー、ピンク、バイオレットを予定の色分け用に使っている。ボール径は主に0.4、0.5。もしこの世からエナージェルがなくなったら、私は他人に読める字を書くことができなくなるので、一生分は確保しておきたい所存である。

ハイブリッド デュアルメタリック、ハイブリッド ミルキー、マットホップ、スリッチ、ハイパーG、ボールPentelほか
90年代を知る層には懐かしのミルキーペンことハイブリッド ミルキー(復刻版)、ラメインキのハイブリッド デュアルメタリック、高発色マットカラーのマットホップといったカラーボールペン勢は、とにかく色数があるので、一気にカウントが増える。こういうのは全色揃っていることに意味があるので、全14色なら14色、全30色なら30色を保有しなくてはならない。全部使うのかと問われると微妙なところではあるが、そういうものなのだから仕方ない。集めること、コンプリートすることは、ヒトの原初的な欲求のひとつだ。
なお、セット品とバラ単品とで重複しているものもあるが、これはそれぞれに役割が異なる。セットケースに入っているものは保存用であり、バラ単品は使う用である。フィギュアを箱に入れたまま保存する用と、開封して飾る用とで複数必要になるのと同じ理屈である。

ビクーニャ フィール、ビクーニャEX1シリーズ、ビクーニャEX1シリーズ シエリナ ほか
油性ボールペンはビクーニャ フィールおよび、金属軸でやや高価格帯のビクーニャEX。基本的にゲルインキボールペンを愛する私であるが、ときには油性ボールペンでの記入が必要となる場合もある。その際に出番となるものである。中身は同じでも軸のデザインがさまざまにあるので、自然と所有する本数も増えていく。
同じメタリックグリーン軸のビクーニャ フィールが3本あるように見えるが、これは2色ボールペン+シャープペン、3色ボールペンの0.5、および0.7と、微妙に種類が異なる。メカっぽい軸色と印字が気に入って、各種取り揃えている。
ほかには、ノベルティでもらった他社製品など。社名やイベント名を名入れ印刷してあるケースが多い。もらう側としては、何本あっても困るものではないし、渡す側としてもコスパが良いということで、油性ボールペンはノベルティとして定番の人気がある。私は一時期、こうしたノベルティ品に関わる部署にいたことがあるので、もらうとつい、名入れ印刷範囲や印刷方法やクオリティをチェックしてしまう。

アイプラス3本用ボディ、5本用ボディ
カスタマイズペンのアイプラスは、すべて限定デザインのもの。限定と聞くとつい集めてしまうのは、自社製品であっても同じことである。特に、乳白色のボディにボタニカルテイストのイラストがあしらわれたシリーズは、うっすらと透け感があり、ヴィンテージのマグカップを思わせるミルクガラスのような素材感が面白い。透明だと事務っぽいし、不透明だとおもちゃっぽい、というときに、こうした中間的な選択肢はちょうどよい。もっと増えてほしいと思う。
ここまでで登場したボールペンは、最高でも3000円程度。その中にあって、異彩を放つ1本を紹介したい。

エクスキャリバー ドズマリー
かつてぺんてるには、アーサー王伝説をモチーフにした高級筆記具ラインが存在した。筆記具を現代の剣とみなし、かの聖剣の名を冠した「エクスキャリバー」である。
こだわりを尽くした素材で装飾を施し、1本20万円くらいする筆記具を打ち出していたことは、今も界隈で語り継がれている。私も入社当初、店頭販売研修で高級筆記具売り場に立ち、一日中アーサー王伝説の解説をして過ごしたものだが、現在は廃番となっている。
これは、そんなエクスキャリバー「ドズマリー」シリーズの1本。アーサー王がエクスキャリバーを授かった湖をモチーフにしているという。万年筆とボールペンをラインナップしており、これは水性ボールペンである。


目を惹くのは、魔法でも放てそうな頭冠のルビー(4.904ct)だろう。さらに、実はボールペンのチップにもルビーを採用しているというところもポイントだ。正直いって、見たり書いたりしてチップの違いを実感できるかというと微妙なところだが、そう聞くとありがたみを感じる。水面を思わせる軸のさりげない地紋、高貴なエンブレムも上品で気に入っている。とはいえ、見た目にも物理的にも結構な重量感なので、普段使いすることはなく、飾り棚に鎮座している。
そんな特別感あふれる1本であるが、告白すると、いつどうやって手に入れたのだか、覚えていない。たぶん、岩に突き刺さっていたのを抜くなり、湖で授けられるなりのドラマティックなエピソードはない。大掃除をしていた上司から「要る?」みたいな感じでカジュアルにもらったような気もする。
このエクスキャリバーに連なる系列で、同じく今は廃番となっている、やや身近な価格帯であった「ランスロット」シリーズのキャッチコピーが「力は、受け継がれた。」だったが、こうしてペンも受け継がれる。みなさんも、そのようにして家族や先達から受け継いだペンが1本や2本はあるのではないだろうか。
ボールペン合計:181本
シャープペン

オレンズ、オレンズ メタルグリップタイプ、PG-METAL350 キャプチャーズ、グラフギア300、グラフ1000リミテッド、P200、スマッシュ、エナージェル シャープペン、ピアニッシモ、ドットイー・ティント、キャプレット、フィエスタ、タフ ほか
ボールペンに比べると、控えめな本数である。カラーバリエーションを除けば、実質的にはさらに少なくなる。ぺんてるといえばシャープペン、というイメージのある人にとっては意外なことだろう。正直いって、家でシャープペンを使う機会というのはあまりないので、これで十分と思っている。
ボールペンは何本も持っていても、インキの色や種類が違って用途ごとに必要なのだ、とか、使い切ったときの予備用だ、などという言い訳ができるが、機構が壊れない限り永遠に使い続けられるシャープペンだと、なかなかそうはいかない。私の場合、何かあったときのために一応、0.2から0.9まで所持しているが、基本的に0.5のHBもしくはBを使うという保守的な人間なので、特に。

スマッシュはキャッチコピーを担当した経緯もあり、根強い人気を誇る製品なので、基本として手元に置いている。学生時代にスマッシュと出会い、文具沼にはまったという話はよく耳にするが、どちらかというと金属よりプラスチック製の軽いシャープペンのほうが好みであった私は、入社するまでスマッシュを使ったことがなかった。その分も取り戻すべく、自宅でのシャープペン筆記シーンでは基本的にスマッシュを使うことにしている。
とはいえ、中にはスマッシュでは適さないシーンというのもある。以前、感染症流行の折に、私は毎朝の体温を記録することにして、専用のノートとシャープペンを用意していた。なにしろまだ頭が働いていないときにすることであるから、このシャープペンは、寝ぼけて床に落とす可能性が否定できない。どんなシャープペンでも、落としてもよいなどというものはないというのは前提とした上で、万一の際のシャープペンおよび床へのダメージを鑑みて、そのときはスマッシュではなく、ほかの軽めのシャープペンを使っていた。何事も適材適所である。

我が青春のサイドノック式シャープペン、ドットイー・ティント。学生時代に使っていた現物は、確かにどこかにあるはずなのだが見つかっていないので、これは入社後に手に入れたものである。今は廃番となって、社内でも簡単に手に入るものではないので、普段は大事にしまっておき、ここぞという試験の際などに使う。人生で一番、手書きしていた時期に使っていただけに、手に馴染んでいるのか、一番速く書けて、筆が乗る。
同じサイドノック式のピアニッシモも、90年代当時のものと、2020年に限定復刻したものを保有している。これについては、サイドノッカーとしての使命に駆られて取り揃えているのであって、完全にコレクションといって差し支えない。

鉱物をモチーフとしたグラデーションが美しい、オレンズ メタルグリップタイプの限定カラーが、周辺ツールと合わせてスチールの工具箱に収められているこのセットは、プレゼントキャンペーン用に制作した非売品だ。このような、道具があるべき場所に整然と収められている様子というのは、なぜこんなにも心を惹きつけるのだろうか。普通に商品化しても良いのではないかとさえ思える。もったいなくて使えないが、ときどき蓋を開けて眺めては満足している。

ハイポリマー芯、ハイポリマースーパー芯、ハイポリマーアイン、アイン替芯シュタイン、サプリオ、Pentel Ainほか
替芯は、ずいぶんと古いものが混じっているが、これはもともと実家にあったものだ。以前の記事(シャープペン替芯の違いがわからなかった君へ。PentelAinという選択)を書くために、実家から発掘してきて、そのまま手元に置いている。自分で学生時代に買ったのは、ハイポリマーアインくらいだろうか。当時はシャープ芯に対して何のこだわりもなく、おまけがついているものを適当に買っていたものだ。
左上、1960年に発売された、合成樹脂配合芯の先駆けであるハイポリマー芯を、実家の引き出しの中から見つけたときは、おおと思った。自分が生まれる前に発売された、自社の歴史的商品が実家にあるというのは、身近なものをつくるメーカーならではという感じがする。文具というのは、明らかに壊れたり書けなくなったりしない限り手放しにくいというところもあって、特にシャープペン類は実家で生き残りやすいのかもしれない。みなさんも探してみてほしい。

手持ちで一番古いと思われるハイポリマー芯と、2023年発売の最新型であるPentel Ainを並べてみた。これがこうなってこう、である。レトロと近未来の邂逅(かいこう)。ケースの開け方もだいぶスタイリッシュになった。しかし、芯そのものの長さや0.5、0.9といった規格は変わることなく、60年以上経った現在にも受け継がれているというところがぐっとくる。
シャープペン・替芯合計:57本
ブラッシュ(筆)

ミルキーブラッシュ、デュアルメタリックブラッシュ、アートブラッシュ、ぺんてる筆、みず筆
これだけ所持しておいて何であるが、正直、そんなに使うものではない。ボールペンでさえまともな字が書けないのに、どうして筆で字を書こうと思うだろうか。しかし、これはいわばぺんてるのアイデンティティとして所有している。のし袋などを書く機会が訪れると、「よしきた」と各種取り揃えてひっぱり出してくる、そのとき、自分がぺんてる社員であることを自覚して、少し誇りに思ったりする。
カラー筆ペンは、色のバリエーションはもちろんのこと、ミルキーだったりラメだったりのインキの質感も、近年さまざまに進化している。遊びでカラフルなカリグラフィーやゆるい絵を描いてみるのも、上手い下手は別として楽しいものがある。
ブラッシュ(筆)合計:63本
ペン・マーカー

サインペン、筆タッチサインペン、筆文字サインペン、慶弔サインペン
大量のサインペンは、ぺんてるのアイデンティティ・その2である。
普通のペンは、黒・赤・青の順でよく売れると聞くが、サインペンは例外で、赤が一番売れているという。それだけ、採点や赤入れ、レース予想によく使われているということだろう。実際、私の所有するサインペンも、赤の本数が5本ともっとも多かった。
実はサインペンには黒・赤・青以外の色もあって、特に桃色などは、人に見せると、こんなポップなものがあったのかと驚かれて盛り上がる。見慣れたものの色違いやサイズ違いというのは、それだけでおもしろく、心惹かれるものだ。
筆タッチサインペンは色数が多いので、左上のように、ジャストサイズのフラットケースに各色1本ずつ収納している。最近さらにカラーバリエーションが増えて入りきらなくなってしまったが、30色までは入るはずだ。

サインペンと筆タッチサインペンは、何が違うのかと思われるかもしれない。外観は、筆タッチのほうは軸に微妙にラメが入っているくらいで、ほぼ同じだ。違いはペン先で、筆タッチサインペンはソフトなペン先が筆のようにしなることによって、細い線も太い線も描くことができる。私のような初心者が、見様見真似でレタリングもどきを書くのに最適である。ラフにザザッと書くときには通常のサインペン、抑揚をつけて表現したいときには筆タッチサインペンを用いるのがよいだろう。

店頭ではあまり見かけない、白い軸のサインペンは何かというと、ぺんてるの展示会や体験イベントで、自分の好きな色のインキを詰めてオリジナルサインペンを作ったときのものだ。スポイトで数滴ずつ、インキのもとを合わせて微調整しながら色を作っていくのは、時間を忘れて夢中になるほど楽しい。遠い昔、図工の時間にえのぐを少しずつ混ぜて、変化する色を楽しんでいたことを思い出す。ときには、思っていたのと違う色になることもあるが、「Ctrl+Z」で簡単に元に戻せない、一期一会なところも趣があるというものだ。

トラディオ プラマン、プラマン ほか
左の3本は、海外仕様のトラディオ プラマン。現在、国内向けには黒ボディのみであるが、海外仕様はカラーや質感などに豊富なバリエーションがある。あまり日本の筆記具では見かけないような色合いの軸もあったりして、つい何本か集めたくなってしまう。

トラディオ プラマン、そしてその元祖ともいうべきプラマンは「プラスチック万年筆」の名の通り、ボールペンともサインペンとも異なる独特のペン先を有している。角度や筆圧によって線に抑揚をつけやすく、なんとなく字が上手く見える。人に渡すものなど、背筋を正して字を書く必要があるときには、私はエナージェルもしくはプラマンを使うようにしている。

フィットライン、ノック式ハンディラインS、ノック式ハンディS Pentel PEN ほか
ツインタイプ蛍光ペンのフィットラインはいずれも限定品。定番品よりも淡くソフトなインキ色になっている。私はそこまで蛍光ペンに主張の強さを求めていないので、これくらいがちょうどよい。こうして見ると、蛍光ペンの定番である黄色が1本もないことに気づくが、それもやはり、主張が強すぎて目に痛いので敬遠した結果であろう。
油性ペンは太さに応じて用意している。中でも、細字を使う機会が多い。気分で自社製品だったり他社製品だったりを使うが、譲れないのはノック式ということである。ボールペンにしろマーカーにしろ、ノック式にできるのであればノック式であるに越したことはないと思う。

特にマーカーは、一度ノック式を知ると、もうキャップ式には戻れない。キャップの開け閉めは、目測を誤ると指を汚すことになり、しかも油性だと簡単には洗い落とせないため、被害が大きい。また、キャップをしっかり閉めないとペン先が乾いてしまうのでは、という強迫観念があり、強く閉めるが、そうすると次に使うときに開けるのに苦労する。
ちょっとしたことだが、こうしたささいな不便が積み重なって、油性マーカーへの苦手意識となり、使うのを遠ざけるようになる。メーカーとしては由々しき事態だ。
一方のノック式は、そういった心配がない。ボールペンと同じような感覚で気軽に使えて、たいへん快適である。まだノック式を知らない人は、ぜひ一度試してみてほしい。
ペン・マーカー合計:85本
消し具
「ペン類」に含めて良いものか迷うところだが、修正ペンやホルダー式消しゴムといったものはペンの形態に近いので、おまけで仲間に入れさせてほしい。

プチコレ、修正ペンスリム、クリックイレーザー、フレンチポップ、マークシート消しゴム、アイン消しゴム ほか
ペン型の黒いボディから消しゴムを繰り出して使うクリックイレーザーは、もともと実家にあって、学生時代から使い続けているホルダー式消しゴムだ。ロゴの印字はとうに消えている。物持ちが良すぎる気もしなくもない。現行のクリックイレーザーは消しゴムが薄い板状で、ボディもカッターナイフのような形状だが、こちらは円柱形という違いがある。

そもそも私は、消しゴムはブロックタイプより、圧倒的にペンタイプが好みである。筆箱に入れるにしろ、持ち運ぶにしろ、形状はペンと統一したほうが管理しやすいし、持ち替えて使うのもスムーズである。また、ブロック消しゴムの場合、紙スリーブが傷んでいったり、消しゴム本体の先端や後端が汚れていくのが気になるが、ホルダー式消しゴムは先端を収納でき、全体を軸でカバーされているという安心感がある。広い面を消すシーンでは若干不利になるとはいえ、日常で消すのは細かな箇所だけなので、特に不便に感じたことはない。自宅ではマグカップをペン立て代わりにしているため、そこにシャープペンと一緒に差しておけるところも気に入っている。

この生麩のようなものは何かというと、消しゴムの切れ端である。ぺんてるの工場では、消しゴムはまず長い1本のひものような状態で作られて、その後、私たちの知る長さにカットされる。これはカット前のものをもらい受けて、適当なサイズに切って分けたものだ。本来は切れているはずのものがつながって、店では見かけない長さになっているのは、特別感があって、なんだか面白い。よく、工場直売所で菓子の切れ端などを売っていて、正規品よりも人気になっていることを思い起こさせる。
消し具合計:16本
03家のペンを全部出してみて、わかったこと
以上、家のペンを全部出してみたところ、合計402本であることがわかった。なにしろ見当がついていなかったので、思ったより多いような気もするし、まあそんなものかという気もする。
なにも、最初からこうだったわけではない。何度でも言うが、私は過去に文具コレクターだった時期はなく、特にこだわりもない人間であったので、学生時代には、ペンケースに入るだけの本数しか所持していなかった。シャープペン1本、ボールペン2本、蛍光マーカー2本、消しゴムくらいのものだったはずだ。だからこれは、文具メーカーに入ってしまったがために生じた状況であるといえる。ペンも積もれば山となる。
本棚を見ればその人がわかるというように、筆箱を見てもなんとなく、その人らしさを感じられるものだ。私は筆箱というものを所有しなくなって久しいが、このペンの山からも、何らかのプロファイリングができるものだろうか。少なくとも「ぺんてる社員である」ということは、あからさまにわかるだろう。
さて、具体的な本数がわかったところで、こういう企画の場合、各ジャンル何本までと決めて厳選し、後は処分することで、こんなにミニマルになりましたと、劇的なビフォーアフターを見せるものだ。
雑多なペンの山から、選び抜かれた数本の精鋭へという画は、いかにもWeb記事のサムネイルとして関心をそそりそうではあるし、それらの精鋭は社員のお墨付きということで、多少の宣伝効果も期待できるかもしれない。選ばれたのは、オレンズAT、Pentel Ain、エナージェル、フローチューンでした、みたいな。今これを推したいという思惑の盛り込まれた、新製品中心の布陣となることだろう。
しかし、私は別に、新製品の販促のためにこの企画をやっているわけではない。家の片付けをしたくてやっているのでもない。
なので、区分して、数えて、撮影して、その後は、何事もなかったかのように、元の場所に戻した。いつものように、なぜかスペースに入りきらないものも出てきたが、そのうちどこかに収まるだろう。
整理整頓や大掃除をするにあたってのセオリーとして、「思い出の品」に手をつけるのは最後にする、というものがあると聞く。見ながらあれこれ思い出してしまうから、手が止まって作業が滞り、ためらって結局捨てられなくなるからである。ゆえに、まずは要不要を簡単に判断できるものから始めて、弾みをつけた上で、最後に取り掛かるとよい、ということらしい。一般的には、まず手をつけるのは、衣類とか、消耗品、それこそペンなどになるのだろう。
それでいうと、ペンの1本1本に対して、これはあのときのあの製品で、自分はどう関わって、社内でこういうことがあった、という思い出を鮮明に甦らせてしまう私にとって、ペンは消耗品ではなく、「思い出の品」に他ならない。どうりで1本も捨てられないわけだ。大掃除なら、手をつける順番を完全に間違っている。
家のペンを全部出してみて、わかったのは、整理整頓の効果は期待できないということ。そして、ことのほか、自分がペンに思い入れがあるということだった。
なお、最後に一つ、断っておきたいことがある。
私が現在の家に引っ越してきたのは、2020年春のことだ。ちょうどパンデミックの頃で、社会の混乱もあり、引っ越し業者へ依頼することが叶わずに、旧居からの荷物は自力で搬入するしかなかった。必然、持ち込める物量は限られる。だから、厳選に厳選を重ねて、本当に必要なものだけを運び込んだはずなのだ。そのとき、ペンを400本も持ち込もうとしていたら、確実に周りに止められていただろう。
すなわち、ここにあるのは、この4年の間で増えた新しいものや、後からやはり必要と思ってちびちびと持ち込んだものに限られる。
残りはどこにあるのか。実家である。そこには、これより過去の品々が眠っているはずだ。
入社したとき、手提げ袋いっぱいにもらった、当時の主力製品の数々。すでに廃番となって久しいシャープペン、極細カラーボールペン、修正テープ、除電器。
何年も開けずにいたタイムカプセルのようなものだ。何が入っているのか、もはや記憶が定かではないし、品質の保証もできかねる。
この記事の反響次第では、次回は「実家のペン全部出してみた」になるかもしれない。見てみたいような、見ないでそっと閉じておいたほうがいいような、複雑な心境である。